バラの品種はどう選ぶか?
3万品種ほどあると言われるバラの種類・品種はまさしく百花繚乱です。あまりにもたくさんの品種があるので初心者の方は一体どれを選べば良いかで迷われている方が大半ではないでしょうか。
しかし、最初に育てるバラこそとりわけ慎重に選んで欲しいと思います。バラ好きになるか、それとも嫌いになるかは最初に選んだバラをうまく育てられるかどうかにかかってくるからです。
本稿では、あなたが最初に育てるバラをよりよく選ぶための道しるべとなる4つの基準を紹介します。バラのプロが「あなたにとっての最適なバラ」を探す考え方を説明します。
目次
あなたに最適な品種を探すための4基準
- 『花色』からはじめよう。
- 『香りの有無』を重視するかどうか。
- 『耐病性』を重視するかどうか。
- 『樹形』を考慮するかどうか。
以上の4点が4つの基準です。
そして、詳しくは後述しますが、この4つを横に並べて(並列的に)考えるのではなく、3段階のステップに分けて考えることであなたに最適な品種を見つけることができるでしょう。
それでは、見ていきます。
基準1:『花色』からはじめよう
赤や白やオレンジ、藤色にetc.・・・バラの花色に無い色はありません。
どのバラを育てていくかは、あなたが何色の花に心惹かれるかというのが一番のポイントになります。
見るも鮮やかな花色。単色はもちろん、複数の色が共演する複合色に、徐々に色合いが変化していく品種などなどじつに様々です。好きな花色だからこそ手間暇をかけてでも育ててみようという意欲が湧いてきますよね。
百花繚乱のバラの花色。ローズフェスタのバラの一部を紹介します。
[※掲載写真は全てローズフェスタの管理ファームで撮影しています。]
赤系
※ その花色に魔性が宿る。バラ[オデュッセイア]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※ 最高級の花びらと強香の黒バラ[パパ・メイアン]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※ 雄々しく猛る深紅の大蛇のようなバラ[ムンステッド・ウッド]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
ここまでいくつかの赤系統のバラを紹介してきました。
ご覧いただいたようにひと口に「赤」といってもそれぞれに微妙に色味が異なっていることにお気づきいただけると思います。
バラは花色ひとつをとっても多様で多彩であることがわかります。
※なお、 おススメの赤バラ|200種以上の赤系統から選んだお勧め品種 では栽培入門者向けから上級者向けの品種まで、さまざまな赤バラを幅広く紹介しています。
黄色系
※なお、 交錯する愛憎の花言葉。黄色のバラの紹介|100種類以上の黄色系統から選んだお勧め品種 では栽培入門者向けから上級者向けの品種まで、さまざまな黄色のバラを幅広く紹介しています。
オレンジ系
※ 夢と魔法の世界のバラ[ディズニーランド・ローズ]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※ フルーツの香りと耐病性のバラ[レディエマハミルトン]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※なお、 絆の花。オレンジのバラの紹介|100種類以上から選んだお勧め品種 では栽培入門者向けから上級者向けの品種まで、さまざまなオレンジのバラを幅広く紹介しています。
白系
※ まるで天女の羽衣。大輪系白バラ[エレーヌ・ジュグラリス]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※なお、 おススメの白いバラ|200種以上の白系統から選んだお勧め品種 では栽培入門者向けから上級者向けの品種まで、さまざまな白バラを幅広く紹介しています。
ピンク系
※ 強健で枯れにくいバラ。栄誉の殿堂[クイーン・エリザベス」の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※ ベランダでも育てられるイングリッシュローズ[クィーン・オブ・スウェーデン]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※ 花嫁を連想させるバラ[ブライダル・ピンク]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※ 美しさとかよわさに包まれたバラ[ミミエデン]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※ おおらかにつきあえる再生のバラ[レオナルド・ダ・ヴィンチ]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※なお、 美と幸せの花色。ピンクのバラの紹介|400種類以上から選んだお勧め品種 では栽培入門者向けから上級者向けの品種まで、さまざまなピンクのバラを幅広く紹介しています。
茶色系
※ 苦みと甘みが溶け込む花色まろやかなバラ[カフェ・ラテ]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※ すらりと伸びた枝先にふわり波打つブラウンの花。バラ[ジュリア]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
紫・藤色系統
※ かつて青バラと呼ばれた香りのバラ[ブルー・ムーン]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
※なお、 冷静と情熱が混じる神秘の花色。紫・藤色のバラ紹介|50種類以上から選んだお勧め品種 では栽培入門者向けから上級者向けの品種まで、さまざまな紫・藤色のバラを幅広く紹介しています。
その他の系統
※ うどんこ病に強い強香のバラ[フレグラント・アプリコット]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
基準1のまとめ
これまで見てきたようにバラには多彩な花色があり、それが大きな魅力です。
お好みの色は見つかりましたか?
まずは心惹かれる花色はどれだろう?という視点で探してみましょう。
基準2:『香りの有無』を重視するかどうか
花色と並ぶ重要なポイントが香りです。
ひと口に香りと言っても、バラの香りには2つのポイントがあります。
- 香りが強いか弱いかといった「香りの強弱」
- ダマスク系やミルラ系などの「香りの質」
この2点です。
香りの強さはバラの魅力を飛躍的に高める大きな要素
バラの品種ラベルに記載されている香りの強弱は
- 強香
- 中香
- 微香
- 無香
の4つに分かれおり、これらいずれかの記載が一般的です。
少しわかりづらいので説明をしておきます。
- 強香:文字通り強い香りのこと。あたりに漂うほど強い香りを放つバラがこれにあたります。
- 中香:顔を近づけることでわかる程度の強さの香り。
- 微香:人によっては香りがわかるかも知れないといった程度の芳香。全く感じない人もいるのが微香。
- 無香:香りが全くない。
香りの有無についてあなたはどう思いますか?重視しますか?それともなくても気にしませんか?
ある人がこのように言いました。
“香りのしないバラは笑わない美人と同じだ”、と。
言葉の是非はともかく、意味するところはバラの香りの魅力をよくあらわしていると思います。嗅覚で感じるバラは、花色の良さを何倍にも増して見せてくれる非常に大切な要素です。バラは五感をフル活用して楽しむのが最上だと思います。
香りのあるバラを強くおススメします。
それもなるべく強い香り、強香品種ほど魅力が大きいと思います。
多彩な香りの質が奥深さを与える
香りの強弱という要素に加えてさらにバラの香りに奥深さを与えているのが「質」です。
じつは、バラの香りはひとつではなく、現在のところバラの香りは8種あるとされています。
「バラの香り」と聞いて多くの方がイメージするのは甘さに特徴がある「ダマスク香」ではないかと思われますがこれ以外にもあります。仮に花色が同じように見えるバラだとしても、香りの質が違うことにより花(=品種)から受ける印象は大きく異なります。
さらには、バラの香りは典型8種にとどまることなく、今も広がりを見せています。現在分類されているバラの香りは「ダマスク」のほか「スパイシー」や「ミルラ」など合計8種ですが、新しいバラの品種が生み出されるのにともない、複数の性質の香りを併せ持ったタイプや、まったく新しい香りのタイプも確認されてきているようです。
この奥深さこそがバラをより一層魅力的なものにしています。あなたを虜にする香りにもきっと出逢えることでしょう。
[結論]初心者の品種の選び方は3つのステップに分けて考える「3段階アプローチ」がおススメ!
さて、4基準のうち、外見(花そのもの)の特徴だけでバラを選ぶとすれば、『花色』と『香り』の2点をもって選ぶことになります。けれど実際に育てていくうえで外見だけを判断基準にしてしまうとのちのち大変です。
外見だけに目を向けるのではなく、育てやすさの問題(耐病性)やスペースの問題(樹形)を考えないわけにはいきません。
なによりも、初心者は耐病性(後述)を特に意識しなければなりません。
初心者のあなたが耐病性を疎かにしたまま品種を選んでしまえばバラを枯らす大きな原因になります。ひいてはバラ嫌いにもなりかねません。
そこで、初心者が品種を選ぶ上でおススメの方法は、4つの基準を3つのステップに分け、以下の3段階でアプローチすることを提案します。
- 「花色」と「香り」の2つの基準で無数にある品種のなかから候補をリストアップする。(※大まかに選ぶにとどめる。)
- リストアップした品種のなかから「耐病性」の強い品種をピックアップする。
- そして、あなたの栽培環境(「樹形」)を踏まえて購入するバラを最終決定する。
という3段階に分けて探していきましょう。
このように3つのステップに分けて考えることで品種選びにおける失敗のリスクを大きく減らせることができると思います。
上記が本稿でお伝えしたかった内容です。
なお、「耐病性や樹形ってなに?」という方もいらっしゃるでしょう。そのため、次に、耐病性と樹形について詳しく話しを進めておきますが、これらについて既によくご承知の方はここで本稿を読み終えていただいてかまいません。
基準3:『耐病性』を重視するか
耐病性とは、そのバラが、バラの2大病と言われる「黒星病(くろほしびょう)」や「うどん粉病」をはじめとする各種の病気に強いか弱いかという性質です。
実際にバラを育てる上で病気への抵抗力の強弱は極めて重要です。育てやすさ(=栽培上の手間暇)に直結するからです。
そのため「実際にバラを育てる」という現実的な視点で見た場合において特に初心者段階で重視しなければならないのがこの耐病性の強弱です。
では、どのようにして見分けていくかについて述べます。
バラのラベルの表記には「耐病性:強い」・「耐病性:普通」・「耐病性:弱い」といった記載がありますが、これらを簡単に言ってしまうと、
- 耐病性が強い品種 = 初心者向け
- 耐病性が普通品種 = 中級者向け
- 耐病性が弱い品種 = 上級者向け
という意味だと私は考えています。
もしかすると耐病性「普通」が「中級者向け」であることに違和感を感じる方がいるかもしれませんね。ですが、「耐病性:普通」表記が必ずしも初心者向きとは言い難い品種も含まれていることは知っておきましょう。
この理由は、「耐病性:普通」は育てていくうえで化学農薬の散布が前提であることが多いからです。初心者は、当然のことながら化学農薬の知識がまだないはずです。それゆえ、まずは農薬の散布がなくとも枯れることなく育つ耐病性が強い品種を選ぶことをおすすめします。
耐病性の強い品種であれば、年間を通して薬剤散布の回数が少なくて済みます。(またはそもそも散布自体が不要の品種もあります。)薬剤の散布はとても手間のかかる作業ですし、そもそも薬剤についての様々の知識が必要となってくるなど栽培の負担が大きく増えます。薬を撒かなくて済むのならそれにこしたことはありません。耐病性が強いことによるメリットはとても大きいのです。
反対に、バラ栽培の上級者であれば最適な薬を適切なタイミングで散布することができるはずです。そのため耐病性の項目を重視する必要性は下がり、優先順位を下げることができるわけですね。
※ 「保存版」500mlペットボトルで超簡単にバラの消毒を行う方法 では初心者でも手軽に薬剤を散布できる方法を考えました。豊富な写真でわかりやすいと思います。参考にどうぞ。
補足:「強健」とは何か
補足をしておきます。
耐病性と似たような語感の文字に「強健」という記載があったりします。バラにおける強健の意味は、「初心者でも育てやすい」を意味しています。
耐病性と強健は似ているのですが、まったく同じではありません。少し間違いやすい部分かも知れません。
強健である ≠ 耐病性が強い。|(強健である、イコール、耐病性が強い、というわけではない。)
強健というのは、「病気にかかってもグングンと成長していく」意味だとお考えいただくのがわかりやすいと思います。病気へのかかりやすさとは別の概念です。「強健であり、耐病性は普通」といった表記も往々にしてあります。
強健品種で病気にかかりやすいものもわりと多くあります。
そうなると、その強健品種自体はひとまずよいとしても、その周囲に耐病性の弱い品種があれば、この弱い品種は強健品種が保持している病気をうつされるケースが生じます。そのためバラが複数ある場合には、「強健」という点だけを見ていてはダメです。病気を周囲に拡散させてしまいます。他方で、バラを1株しか栽培していない場合には強健さだけを考えておいても構いません。
「耐病性」と「強健さ」にはこのような違いがあります。
基準4:『樹形』を考慮するかどうか
バラには大きく分けて3つの「樹形=形」があります。樹形を考慮するかどうかの問題は、端的に言えば、栽培スペース・場所に影響する問題と言えます。
- 木立ち性(ブッシュ)
- つる性(クライミング)
- 半つる性(シュラブ)
これら3つの樹形は、バラがどのようなスタイルとなって生長していくのかという分類です。
木立(きだ)ち性のバラとは
支柱や構造物に誘引しなくても自立できるバラのことです。
木立ち性のバラは、直立性や横張り性の形もあるが、おおむね高さ1~2mの限度で上へ上へと直線的に伸びていくのが特徴です。
英語でブッシュ(Bush Roses)と表記される木立ち性のバラは、
- ハイブリッド・ティー
- フロリバンダ
- ミニバラ
これら3つに分けられます。
ハイブリッドティー(HT)というのは、木立ち性のバラのうち四季咲き性のある大輪品種のことで、長い茎の先に一輪だけ大きな花をつけるものが多い。
1茎につき1つの花が咲くスタイルなので、養分が集中することで1つの花が大きく咲いて豪華になる。ただし、その分だけ次の開花までの間隔が長めになるのが特徴。
※ハイブリットティーの特徴をバラの歴史の歩みとともに見る記事はこちら。
⇒ ハイブリッド・ティーってなに?|新時代を開いた現代バラ誕生の物語
フロリバンダ(F)というのは、木立ち性のバラのうち四季咲き性のある中輪品種のことで、茎の先が房になって複数の花が咲く。
1茎に複数の芽がつき、その芽が順次花開いていくので1茎あたりの開花期間が長くなる。ただし、養分が分散されることからハイブリッドティー品種と比べると花はそこまで大きくならない。
※なお、 フロリバンダってなに?|枝先がブーケのように咲くバラの楽しみ方 ではフロリバンダの特徴や魅力を紹介しています。
木立ち性のバラは、地植えと鉢栽培のどちらにも向いています。
※なお、 初心者必見!4基準から導くおススメの『木立ち性』バラ10選 では本稿の4基準をもとに、初心者に強くおすすめできる10品種紹介しています。
つる性のバラとは
枝が長く伸びていく性質があり、自立することが難しいことから支柱や構造物に誘引する必要があるバラのこと。
一般的にはつるバラと言い、英語ではクライミング(Climbing Roses)と表記されます。
つる性のバラは3m~4mを越えるほど成長していくので基本的には鉢栽培に向きません。10号サイズ以上の大型の鉢であれば写真のように鉢で育てることも可能ですが、やはり地植えに向きます。
写真のようなオベリスクをはじめ、フェンスや壁面、アーチなどに誘引して楽しみます。大きな構造物を覆うようにして多くの花を咲かせることができるのがつるバラの魅力です。
半つる性のバラとは
木立ち性とつる性のバラの中間に位置するバラのこと。
簡単にいえば、枝が細いので自立できず、つる性のバラほどは枝を伸ばさない品種です。つる性のバラほどではないが広いスペースが必要。
英語ではシュラブ(Shrub Roses)と表記されます。例えばイングリッシュローズの品種はこの系統に多くあります。
※ シュラブってなに?|多様・多彩なバラの個性が集まるシュラブの魅力 ではシュラブ樹形の特徴や魅力について紹介しています。
※ちなみに、この「半つる性」という呼び名は、いつの間にか広まった造語で、世界標準の意訳ではありません。便宜上使用しています。
※なお、 初心者必見!4基準から導くおススメの『シュラブ』ローズ10選 では4基準をもとに初心者に強くおすすめしたいシュラブローズを10品種紹介しています。
マンション?一戸建て?あなたにおすすめの樹形
マンション・集合住宅住まいにはどの樹形がおススメ?
マンションや集合住宅住まいであれば、大きく育ちすぎるバラは難しいと思います。
やはり鉢栽培に向くバラを選ぶことになろうと思います。横への場所をさほどとらない木立ち性のバラなら例えばテラスなどで育てることができます。「マンション住まいだからバラ栽培は無理」というわけでもないのです。
一軒家住まいにはどの樹形がおススメ?
一軒家住まいであれば、集合住宅と比べれば比較的スペースに余裕があるケースが多いのではないかと思われます。スペースを広くとれるのであれば樹形による選択の幅が広がります。
「4基準」ではなく、樹形を除く「3基準」で選んで構わないと思います。
本稿のまとめ
さて、いかがだったでしょうか。
バラは毎年世界中で作出された数多くの品種が発表されています。これは既に栽培に慣れている者には新しい楽しみ・ワクワクを届けてくれる心躍るものですが、他方で初心者の方がバラ栽培をはじめる敷居をあげる原因ともなっています。本稿ではこのような「品種の海」を泳ぎ切り、全国様々な環境にある方がご自身にとって最適なバラを見つける手引きとなる基準を紹介しました。
紹介した4基準を参考に、あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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本稿に登場したすべてのバラの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇