遺伝子組み換え技術で青色の色素が組み込まれたバラ「アプローズ」(サントリー社)が生み出される前は「ブルー・ムーン」が青バラの代名詞的な品種でした。業界的には「青バラ」と呼ばれることがあったものの、一般的な色感覚でいえば青というよりも「藤色」のバラです。バラの歴史において青バラは育種家の悲願だったことから「青に近いバラが誕生した喜びを込めて青バラと呼ばれてきた」といってよいかもしれません。
このブルー・ムーンを今日的な耐病性の基準で見た場合、耐病性が強いと評価することはできません。やや育てにくい部類に入る品種ですが、その代わりに強いブルーの芳香が魅力的な香りのバラです。とげが少ないのも長所です。
本稿は、かつて青バラの代名詞的な品種であり、誕生から半世紀以上を経た今なおブルーの強香が色褪せない香りのバラ「ブルー・ムーン」の栽培実感です。
目次
動画でチェック
品種の情報
4基準データ
- 花色 : 藤色
- 芳香 : ★★★★★☆ [強香:甘くて爽やかなブルーの香り]
- 耐病性 : ★★☆☆☆☆ [うどんこ病「普通よりも弱い」|黒星病「普通よりも弱い」]
- 樹形 : 木立ち性・ハイブリッド・ティー
※4基準とはバラ入門者の方がはじめてのバラを選ぶうえでの指標となる4つの判断基準です。さまざまにある選択要素のなかから最も重要な4つの基準を紹介しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
⇒ バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準
補足基準データ
- 花つき : 普通
- 花もち : 普通
- 花形 : 半剣弁高芯咲き
- とげ : 目立ったとげが少ない
- 耐寒性/耐暑性 : 普通[冬:普通/夏:普通]
- 花径 : 10cm[中輪]
- 樹勢 : 普通
- 開花サイクル : 四季咲き
- 作出 : 1964年.タンタウ.ドイツ
- 原名 : Blue Moon
※「半剣弁高芯咲き」をはじめ、バラの花形にはさまざまなものがあります。
⇒ 花びらと花のかたちで見る「花の表記」の読み歩き
※補足データは4基準に準じる2次的な基準です。4基準ほど育てやすさに直結するものではありませんが個々の花の個性を形づくる情報です。
外観上の特徴
ブルー・ムーンは四季咲き性の品種で、冬期を除く春~秋に繰り返して何度も開花します。
開花の様子
開花の様子はこちら。つぼみにはややピンクが混じったりもします。
花色・花のつき方
ブルー・ムーンは気温や株の充実具合、また肥料の多寡によって発色に違いが見られるようです。また、高温期はより薄くなります。
花びらそれ自体の強さや花を保持する力が弱まって中心が開くようにくたっとなります。
この後、花びらは散っていきます。
ブルー・ムーンは枝先に数輪の房をつける場合があります。この場合には余分な房を取り除くようにします。[側蕾といいます。]エネルギーが分散するので花が美しく咲かないことが多いためです。
※ 側蕾(ソクライ)のススメ|ハイブリッドティーは豪華に咲かせて一輪の美を楽しもう で側蕾のポイントを説明しています。
花つき
- 充分な日光量がある
- 充分に肥料管理ができている
- 葉が落ちていない
この3つの条件が整っている場合には花つきは悪くありません。[普通]
花もち
私の印象では花もちは「普通」程度の印象です。(花もちがよいという評価もある。)
香り
「ブルー(ブルー・ローズ系)」の強い香りが際立つ香りのバラです。
最大の魅力が芳香です。
ブルーの香りは、情熱的で濃厚な甘さのダマスク・モダンの香りと森林の中で感じるような爽やかな香りが混じった複雑な香りです。言葉で説明するのはなかなか難しいのでご自身で体験していただくのがおススメです。
葉の様子
病気に感染する前の葉の様子。
見るからに病気への抵抗力を感じさせない葉で、予防薬剤でコーティングしてない限り夏以降まで葉を残すことが困難。
また、暑さ寒さにも弱い。
育てやすさについての私の実感
耐病性
バラはさまざまな病気にかかり、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。
この2大病の耐病性が「普通よりも弱い」品種です。
詳細を見ていきます。
うどんこ病への耐性
うどんこ病への抵抗力が「普通よりも弱い」品種です。
[※表記の参考:かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通]
早め早めに予防薬剤を散布することが必要です。薬剤の散布を怠ると花季のどこかのタイミングでうどんこ病が生じる可能性が高いでしょう。
うどんこ病の症状|風が運ぶ脅威。季節はずれの粉雪がもたらす病害 ではこの病気について解説しています。
黒星病への耐性
黒星病への抵抗力が「普通よりも弱い」品種です。
[※表記の参考:かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通]
消毒剤で予防薬のコーティングを行っていなければ5月の開花頃には黒星病が生じていることがあります。
薬剤での防除を考えるか、またはなるべく雨露の当たらない環境で育てるなどの工夫が必要です。
なお、サプロール乳剤は黒星病の初期症状に薬効が認められるので初期状態であればこの薬剤で治癒させることができます。 [保存版]500mlペットボトルで超簡単にバラの消毒を行う方法 で6ステップで簡単にサプロール乳剤を散布する方法を紹介しています。
耐病性まとめ
ご覧のようにうどんこ病と黒星病ともに「普通よりも弱い」品種で、病気に強い抵抗力を備えているバラではありません。
薬剤散布が不可欠の品種です。
樹勢
樹勢は「やや弱い」かせいぜい「普通」といった印象です。
強健という評価も耳にしますが、私はあまりそう思いません。バラにとってやや過酷な環境でテストした場合には花が咲かない場合や、枯死することが5株ほど見受けられました。例えば、強健で名高いクィーン・エリザベスなどであれば全く問題ない環境で、です。
同じ環境で育てた例えば3株の「ディオレサンス」(ラベンダー色のバラ)と比べた場合にも、似たような強さの印象です。[ディオール社の香水の名をもつバラ「ディオレサンス」は育てにくいバラとして知られています。]いや、むしろ樹勢はディオレサンスのほうがやや強い印象すらあります。
強健な品種という評価は少し首をかしげるところで私はいまいちピンときません。ブルー・ムーンは強健とはいえないのではないかというのが私の評価です。[※本稿執筆時の管理人の考え。]
とげの具合
目立つとげが少ないバラです。これは長所です。
とげがあることでバラの栽培を敬遠されている方がいらっしゃいますが、ブルー・ムーンのとげの少なさはそんな方にも安心です。革手袋は不要です。
栽培のコツ
半日陰は向かない。炎天下も向かない
半日陰に向くか?と問われると向かないと感じています。
「樹勢」の項目で少し触れましたが、半日陰の環境で5株ほど育てたことがあります。この場合、春の花つきすらあまり良くなく、秋は観賞に耐える花ではありませんでした。
半日陰ではなく、やはり充分な日光量が必要な気がします。
かといって、夏場の直射日光が直撃する炎天下の環境だとこの品種は葉を落とします。炎天下の環境も不向きで、ここが当品種の難しさです。
地植えは薬剤散布と日光量を確保できる場所
多くの肥料を欲する品種です。
地植えであれば施肥についての手間がラクなのでおススメですが、雨に強くない品種なので黒星病への注意が必要です。
きっちり薬剤散布が行える方で、かつ充分な日光量も確保できる場所があれば地植えがおススメです。
この場合は年間あたり数十回以上もの薬剤散布という手間が前提になるのがデメリットです。
鉢植えは肥料の管理に注意。肥料代がデメリット
鉢の場合には雨露への備えがしやすいのがメリットです。雨露を受けそうなときは軒下などへ鉢を移動しましょう。
鉢の場合には、肥料代金が気になります。
多くの肥料を欲する品種ですが、肥料は水やりとともに鉢外へ流れ落ちるので、肥料代が地植えよりもかなり多くかかるなどのデメリットがあります。
適する栽培方法
このように地植えにしろ鉢植えにしろ一長一短があるのであなたの栽培環境にあった環境で育てるのがベストと思われます。
どちらが適するかはなかなか言いづらいところです。
結論:育てやすいか?のまとめ
強健という評価がでまわっているブルー・ムーンですがはたしてどうでしょうか。薬剤の知識がないまま漫然と庭の片隅で育てながら枯らせた経験をお持ちの方。わりといらっしゃるのではないかなと感じたりもします。
この品種を育てる上では、
- 充分な日光量を確保できる場所で育てる
- 雨露に備える心がけ
- 薬剤散布をきっちりと行う
- 肥料に注意する
この4点を意識することが大切です。
このなかでも特に薬剤散布をきっちり行うことが重要と感じます。それなりに手をかける必要があり、やや育てづらい品種と言えるでしょう。[中級者~上級者向き]
本稿のまとめ
バラ「ブルー・ムーン」の栽培実感を紹介しました。少し育てづらい品種ですが、それでもブルー・ローズの強い香りは私たちの鼻孔を虜にしてやみません。ぜひうまく育てたいものですね。
ブルー・ローズ香の他にも異なる系統の香りのバラを紹介しています。興味があれば併せてご覧ください。
※ダマスク・クラシックの代表品種:とろけるほどに甘いダマスク・クラシックのバラ[芳純]の栽培実感
※ダマスク・モダンの代表品種:最高級の花びらと強香の黒バラ[パパ・メイアン]の栽培実感
本稿がより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか
写真・記事の無断掲載・転載を禁止します。
ブルー・ムーンの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇