その花色に魔性が宿る。バラ[オデュッセイア]の栽培実感

バラ「オデュッセイア」の開花写真。赤紫色の色味がよくわかる。美しい写真。

「“バラの花色”といえばどのような花色を思い浮かべますか?」

そう聞かれたら、あなたはどのような色合いをイメージされますか?おそらくは赤や白にピンクなどの鮮やかな原色や単色(一色)の花色を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

本稿で紹介する品種[オデュッセイア]は、従来のような原色かつ単色の花色とは少し趣きの異なるバラです。「かわいい」や「おしとやか」・「優美」・「繊細」などしばしばイメージされがちな従来の花色とは一線を画する深みのある色合いが魅力の品種。

比較的、黒星病への耐性が強いため減農薬・無農薬栽培も可能。バラ栽培の初心者にもおすすめできる品種です。

本稿は、「ロサ・オリエンティス」から2013年に発表された比較的新しいバラ[オデュッセイア]の栽培実感です。(掲載写真:2015年現在)

 

“ その花色に魔性が宿る。英雄オデュッセウスの物語 ”

 

品種の情報

4基準データ

  • 花色 : 黒赤ベースの色味に紫が混じる
  • 芳香 : ★★★★☆☆ [強香|ダマスク
  • 耐病性 : ★★★☆☆☆ [うどんこ病は「普通」|黒星病は「普通よりも強い」]
  • 樹形 : シュラブ|木立ち性タイプ.1.7m×1.0m

※4基準とはバラ入門者の方がはじめてのバラを選ぶうえでの指標となる4つの判断基準です。さまざまにある選択要素のなかから最も重要な4つの基準を紹介しています。

詳しくはこちらをご覧ください。

バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準

シュラブってなに?|多様・多彩なバラの個性が集まるシュラブの魅力

 

補足基準データ

  • 開花サイクル:弱い四季咲き
  • 花径:8㎝
  • 花形:半八重咲き・ロゼット咲き
  • 樹勢:生育初期は「普通」|その後「強くなる」
  • 作出:木村卓功.2013年.「ロサ・オリエンティス」

※「半八重咲き」「ロゼット咲き」など、バラの花形にはさまざまなものがあります。

花びらと花のかたちで見る「花の表記」の読み歩き

 

花名の由来

花名の由来は古代ギリシアの詩人ホメロスの作と伝わる叙事詩「オデュッセイア」より。

叙事詩オデュッセイアは神話上の戦いであるトロイア戦争の英雄オデュッセウスの苦難の後半生を語った物語。物語は知らずとも「トロイの木馬」という言葉を耳にした方ならいらっしゃるだろうと思う。同人はこの作戦を立案した人物として一般的に知られている。同作では、トロイア戦争後の10年間にわたる英雄の苦難の帰路が、怪物セイレーンや魔物スキュラ、魔女キルケ―などとの遭遇を交えて描かれている。

このようなギリシア神話の叙事詩の名が冠せられたバラが「オデュッセイア」。花色を見て「なるほど。」と頷くところのあるネーミング。「ロサ・オリエンティス」の命名つながりから、雑誌「NewRoses」の玉置一裕さんあたりが名付けた印象を受けましたが、はてさてどうなのでしょうか。(※あくまで私の予想。)

 

外観上の特徴

花色の魅力

200株前後を育てていますが、率直に長所の多い品種だと思っています。なかでも目を引くのは、やはりその特徴的な花色でしょう。複合的で深みのあるカラーが魅力です。年間を通してみた花色の違い(変化)についてご覧いただきます。

開花の様子

バ「オデュッセイア」のつぼみが開きはじめている瞬間。

つぼみがほころびると赤の花びらが顔を見せます。

 

春の二番花以降(夏の高温期を除く。)の表情。基本カラー

「オデュッセイア」の開花姿。夏の熱さで形がやや歪んでいる写真。

年間を通せばブラック―レッド(黒+赤)のベースカラーに、ほんの少しパープルが見え隠れする様子の複合的な色合い

パッと見は「黒味を帯びた赤色」といったところ。よくよく見れば、左下あたりの花弁にほんの少しだけ紫が乗っているのがおわかりいただけるだろうか。

 

夏場の高温期などの表情。

夏場は黒味が入った赤色になる「オデュッセイア」の花姿。

夏場などの高温期にはパープルは影を潜め、より一層、赤黒い表情となる。

パープルが完全に退色したこのような夏場の濃赤色も人気が高い。

炎天下においても燦然と赤く輝く様子は英雄さながらの力強さを感じさせる。

※掲載写真は2015年の夏季シーズンでの一枚。外気温が35度を超える8月の猛暑日が続くハウス内環境で、強烈な日差しにやられて葉やけを起こしている。

 

初春の一番花・晩秋の冷温期の表情

バラ「オデュッセイア」の8分咲きの花姿。この品種の特徴である赤色のなかに紫色が加わっている色味がよくわかる。

 

「魔性が宿る」と表現したパープルが姿を見せる頃合いは春の一番花と晩秋の冷温期

この季節に咲く花色はBlack-redの基本カラーの随所にパープルがあらわれ、ある花は花弁に一筋のパープルがはしり、またある花はパープルに支配されたかのように花弁全体が紫色に染まるなど、魔が宿ったかのような妖艶な花姿となる。

物語を彩る異界の住人が躍動するのは年間を通してそう長い時間ではありません。魔性の宿るひとときの美しさは、見る者をバラの世界に引きずり込む力、魔力があると言えましょう。

オデュッセイア最大の見どころはこの時期です。

赤紫色の色味がよくわかる「オデュッセイア」の花色。

 

※なお、ひと口に赤色といっても花色は微妙に異なります。様々な赤バラはこちら。

おススメの赤バラ|200品種以上から選んだお勧め品種

 

香り

魅力は花色だけではありません。ダマスク系の濃く、そして強い香りが長期にわたって持続します。

ダマスク系の香りというのは、バラが放つ数種類の香り成分のうちの一分類で、ダマスクは「誰もがイメージするバラの香り」そのものです。このダマスクの香りに、ハーブの香りが少し加わった感じがオデュッセイアの香り

濃厚で上品な香りは、セイレーンの甘美な歌声のように人の身体と心を蕩けさせます。

 

育てやすさについての私の実感

耐病性

うどんこ病と黒星病の2点を見た耐病性の評価は「普通」とします。

[※2019年最新の評価。なお、2017年の評価:「普通よりも強い」を改めます。]

この理由を見ていきます。

耐病性

バラはさまざまな病気にかかり、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。

うどんこ病への耐性

うどんこ病への抵抗力は「普通」です。

露地栽培ではさほど多く被害は受けませんが、施設栽培では対策が必要です。

発症した場合には早めに予防薬剤を散布しましょう。

うどんこ病の症状|風が運ぶ脅威。季節はずれの粉雪がもたらす病害 ではこの病気について解説しています。

黒星病への耐性

黒星病への抵抗力が「普通よりも強い」です。

黒星病を簡単に説明しておくと、これは雨によってもたらされる病害で、最初、バラの葉の表面に不規則に小さな黒い斑点が生じ、それが他の葉にも急速に拡大しつつ、小粒だった黒い斑点自体も徐々に肥大化していき、やがて感染した葉が晩秋の落ち葉のように黄変して落葉するという症状です。

植物は光合成でエネルギーを蓄えており、この光合成は葉で行われています。植物の生命活動は根から水分と養分を摂取し、それを葉が日光を受けてエネルギーへと変換する(=光合成)わけですが、黒星病はこの葉の大部分を失わせしめるので恐ろしい病気なのです。

ですが、安心してください。

オデュッセイアはこの黒星病に比較的強いのです。これは長所です。

抵抗力まとめ

ご覧のように2大病のうち、うどんこ病には「やや弱い」ものの黒星病には「普通よりも強い」抵抗力をもっています。

黒星病の点を評価し、抵抗力は「普通よりも強い」としたいと思います。

 

樹勢|強健品種

耐病性は「普通よりも強い」程度ながら、この品種の最大の特徴は樹勢の強さにあると思われます。

黒星病に感染しづらい品種ですが、そうは言っても薬剤の散布を一切行わなかったとすればさすがに感染する場合があります。けれどこのバラが特異なのは黒星病により葉の大部分をなくしても枯れ込むケースをあまり見ないことです。葉を失っても枯れることなく踏みとどまって生存しています。

強健品種で知られる例えばクィーン・エリザベスなどと比べると一歩劣る印象は受けるものの、それでも充分な強さを有していそうです。オデュッセイアもまた強健品種と言って差し支えないのではないかと思われます。

[参考: 強健で枯れにくいバラ。栄誉の殿堂[クイーン・エリザベス]の栽培実感

 

薬剤に頼らずとも地植えで減農薬または無農薬栽培が可能です。

[※ただし、葉を落とすと、枯れないまでもそれ以降の充分な開花は望めません。葉を再度芽吹かせる管理が必要です。]

 

とげの具合

「オデュッセイア」の枝のとげ。

[2016年,春.撮影]中心の縦筋が入っている枝は前年枝。右に伸びているのが今春のシュート。

 

「オデュッセイア」の枝のとげ。

大きくて鋭いとげがあります

もっとも、その数は多くなく、目に見えないほどの小さなとげはありません肉眼で見える範囲で避ければ足りるので、とげはあれども扱いやすい部類と言えそうです。

 

栽培のコツ|特に、日当たりを好む

一般的に、バラは太陽(日光)をとても好む植物です。理想を言えば、朝から晩まで絶え間なく太陽を浴び続けることのできる栽培環境が好ましい。とはいえ、そのような環境は現在の住宅事情ではなかなか難しいことから、実際には3~4時間程度の日照で生育する品種が多いのが現状。

ところがオデュッセイアについては、3~4時間程度の日照では生育に難が生ずるのではないかという印象です。日陰気味の場所では開花数にかなりの影響があります(悪くなった)

[開花数が悪かった環境の情報]

  • 日照時間 : 午前中のみ。(季節により前後するが、約3~5時間程度)。午後の日照はほとんどない。
  • 栽培環境 : 鉢(8号・ロングスリット鉢。オリジナル培養土)栽培。鉢を地面に直置きはせず、地表より数十㎝上空に杉の板を水平に並べ、その上に鉢を置いていたので風通しに問題はない。ただ、鉢と板が直に接する鉢底の水はけはやや悪い。(=鉢内の水が底から少し流れづらい。)
  • 実験苗数 : 接ぎ木2年生苗 5株
  • 周辺環境 : 周囲はやや湿気のある場所だが風通しはすこぶる良好。

この環境下で5株ほど栽培し、いずれも開花数に難があった。オデュッセイアは親品種の一方が一季咲きのスパニッシュ・ビューティー(Spanish Beauty)のため、完全な四季咲きではない点を踏まえても開花数が相当に少なかったように思う。さらに言えば、この場所で育てた株は秋には咲かなかった

このようなことから、特に日当たりの点を意識して3~5時間以上の日照時間を確保できる場所で育てるのがよいと思います。日照不足の影響が強くあらわれる品種と言えるのかもしれません。

 

適する栽培方法|地植え・鉢植え、いずれも大丈夫

オデュッセイアはシュラブ樹形で、直立に生長する木立ち性タイプのバラです。樹形というのは、枝がどのように伸びて生長していくかということですが、直立というのは文字通り、横へとは広がらずに上へ上へと伸びていく性質のことです。

[※ シュラブってなに?|多様・多彩なバラの個性が集まるシュラブの魅力 ではシュラブ樹形の特徴について紹介しています。]

この直立性の長所はスペース(場所)をとらないことです。おおむね鉢のサイズから外へとはみ出すことがなく(少なく)なるからです。場所のことにあまり頭を悩まされずに手軽に楽しめるというのはメリットですね。スペースをとらない直立性は鉢栽培に向きます。

他方で、先述のように耐病性(うどんこ病に弱く、黒星病にやや強い)の特徴から地植えも向きます。

いずれでも大丈夫です。

 

結論:育てやすいかのまとめ

以上見てきたことをまとめると、

  • 黒星病に強い
  • 葉を失っても枯れにくい強健さ
  • 日あたりが特に良い場所での地植えに向く

などのことからほとんど手をかけずに育てられる品種と言えるでしょう。[初心者向き]

 

本稿のまとめ

さて、いかがだったでしょうか。

オデュッセイアを育ててみて感じた栽培実感を品種の魅力を交えて紹介しました。

案内した通り、バラ栽培の入門者におススメして良い品種です。「あまり細かな手間がかからない」というのがとにかく良い点です。それでいて香りが素晴らしく、花色も比類ない。バラを育てる楽しみを手軽にはじめることができます。あなたも魔性が宿る花[オデュッセイア]から異界への入り口へ、もといバラを育てる楽しみ、そしてバラとの暮らしに触れてみませんか?

 

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オデュッセイアの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇