バラの花びらにあらわれる花色は、数個の原色が混じり合って品種特有の個性的な色味をあらわすものがあります。バラの花色の分類に「黒バラ」という確かな区分があるわけではありませんが、本稿で紹介する「パパ・メイアン」の赤黒さはまさしく黒バラと評されるに相応しい花色です。
パパ・メイアンはこれまで17品種選ばれている「栄誉の殿堂入り」を果たした世界的に名の知れた名花でもあります。
本稿は、プロが独自の視点で解説する栽培実感です。品種の特徴や栽培上のコツ、エディブルローズ(食用バラ)としての適性などを説明します。あなたがパパ・メイアンを栽培するにあたって予め知りたいと思うことの多くが本稿にあると思います。
[※なお本稿の文末には食用バラの食べ方も記載しています。]
目次
品種の情報
4基準データ
- 花色 : 赤~赤黒
- 芳香 : ★★★★★☆ [強香|ダマスク・モダン]
- 耐病性 : ★☆☆☆☆☆ [うどんこ病「かなり弱い」|黒星病「弱い」]
- 樹形 : 木立ち性|ハイブリッド・ティー
※4基準とはバラ入門者の方がはじめてのバラを選ぶうえでの指標となる4つの判断基準です。さまざまにある選択要素のなかから最も重要な4つの基準を紹介しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
⇒ バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準
⇒ ハイブリッド・ティーってなに?|新時代を開いた現代バラ誕生の物語
補足基準データ
- 花つき : 良い
- 花もち : やや悪い[高温時には非常に悪い]
- 花形 : 剣弁高芯咲き
- とげ : 若い枝は少数の鋭利なとげ。古枝は無数の太く鋭いとげ
- 耐寒性/耐暑性 : 普通[冬:普通/夏:普通よりも強い]
- 花径 : 13㎝前後[春の一番花基準]・大輪
- 樹勢 : 普通~やや強い
- 開花サイクル : 四季咲き
- 作出 : 1963.メイアン/フランス
- 原名 : Papa Meilland
※「剣弁」や「高芯」などのバラの花形についてはこちら。
⇒ 花びらと花のかたちで見る「花の表記」の読み歩き
※補足データは4基準に準じる2次的な基準です。4基準ほど育てやすさに直結するものではありませんが個々の花の個性を形づくる情報です。
外観上の特徴
パパ・メイアンは四季咲き性の品種で、冬期を除く春~秋に繰り返して何度も開花します。
枝が長く豪華さのある花なので切り花として流通しています。
開花の様子
花弁:最高級の花びらがつくる高貴さ
大きな魅力は最高級の花びらがつくる豪華な花姿ではないでしょうか。
花びらは肉厚でその一枚々〃がビロードのような光沢をもち、それでいてしっとりとした質感をもった最高級の触れ心地。これら一枚々〃が組み合わさってできるパパ・メイアンの雄大な花姿はバラの高貴さを存分に知らしめる威容を誇ります。
たとえ散りぎわにあったとしても、肉厚の花弁がはらりと舞い散るそのさまは絵になります。“花弁ひとつの魅力”を楽しむことができるのがパパ・メイアンなのです。
花姿の美しさ
最高級の花びらが折り重なって作られる花姿は我々を魅了してやみません。
花色は気温により色合いが微妙に変化する色彩の妙も見所です。
ちなみに、花色だけで選ぶのであれば、黒系の色味が混じるバラは「ブラック・バッカラ」や「黒真珠」に、兄弟品種の「オクラホマ」などじつは他にもあります。
しかし、後述する香りの魅力が大きい点を加味して考えると、黒系が混じる色合いのバラのなかで最もおススメなのはこのバラと私は思っています。
第1のウィークポイント:花もちが良くない
肉厚な花びらの魅力の反面、花もちが気になります。
花もちの悪さ。それがパパ・メイアンの第1のウィークポイントです。
品種の特性として花びら数(=花びらの枚数)が少ないのです。枚数が少ないがゆえ開ききるまでの間隔が早くなり、そのため形が崩れやすいという宿命にあります。整形花のままの時間は長くありません。
自然温度下では、
- 春と秋(気温16~23度前後) = 2~4日
- 夏(気温25度以上) = 1日~2日(猛暑日には1日もたないことも多々ある)
が目安といったところ。これは日当たり具合などにも左右されるのであくまでも目安に過ぎませんが、物足りないのは事実です。
しかし、見方を変えれば限られた少数の花びらにエネルギーが集約されているからこそ、一枚々〃の花びらが際立った高級感を持ち得ていると言うこともできます。
このように思い至れば花びら数の少なさによる花もちの悪さは必ずしもウィークポイントとは限らないとも思えますが、皆様はいかがお感じでしょうか。
一瞬で咲き誇り一瞬で終わりを迎える様子は、桜のような美しさを感じることもあります。
香り―「ダマスク・モダン」の香りの代表品種
花びらの見事さと並ぶ魅力は香りです。
パパ・メイアンは7つに区分けされたバラの香り成分の一つ「ダマスク・モダン」の代表品種として名をあげられることが多くあります。香りの銘花でもあるわけですね。
バラの香りと聞いて思い浮かべる一般的なそれがダマスク香であることが多いと思われますが、このダマスクの香りを強く強烈に放ちます。
1.香りの楽しみ方
香りが強烈と紹介しましたが、この香りを最大に楽しむには切り花は適しません。濃厚で強烈な香りを最大限に発揮するのは自然開花に任せた採花前の状態です。このバラは切り花にすることでこの強い香り成分が急速に失われます。この点について言及している記事や書籍は私の確認するところ存在しないのでご存知ない方が大半でしょうが、じつはそうです。
- 採花前の10分咲き = 香り100%
- 採花後1時間経過後 = 香り70%
- 採花後3時間経過後 = 香り40%
- 採花後24時間経過後 = 香り10%未満
数字はアバウトですが、私の感覚ではこのように薄れていく印象です。24時間経つと、香りはほぼなくなります。(少なくとも私にはわかりません。)
2.香りを楽しむ方法
濃厚で強烈なこの香りを楽しむには自ら栽培するか、植栽しているバラ園を訪れるかの2択になります。
1.直接育ててみたいと思われた方はぜひ挑戦してみてください。
2.「育てるのはちょっと…」と思われた方は開花時期を確認してバラ園に訪れてみてはいかがでしょうか。
以下のバラ園に植栽されています。
⇒ RSKバラ園|400品種・15000株のスケール|岡山県岡山市
育てやすさについての私の実感
耐病性
バラはさまざまな病気にかかり、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。
この2大病の耐病性は端的に「普通よりも弱」く、耐病性の弱さが第2のウィークポイントです。
詳細を見ていきます。
うどんこ病への耐性
うどんこ病は白い粉のように見える菌が葉の表面や茎を覆い、著しい場合には細胞を壊死させる病害です。
うどんこ病への抵抗力が間違いなく「かなり弱い」品種です。
[※表記の参考: 最弱 < かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通 ]
何らかの対策が必要となります。日ごろから気にかけていれば発生初期に気づくことができるので日々の観察が大切です。
詳しくは うどんこ病の症状|風が運ぶ脅威。季節はずれの粉雪がもたらす病害 をご覧ください。
1.黒星病への耐性
黒星病への抵抗力が「弱い」品種です。
[※表記の参考: 最弱 < かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通 ]
黒星病というのは春先は脅威とはなりませんが、梅雨シーズンに第1の多発期に突入し、そして真夏を終えた晩夏より第2の多発期に突入します。
黒星病を“完全に”防ごうとすれば定期的な薬剤散布が不可欠です。雨露があたる環境下で薬剤散布なくパパ・メイアンを育てていた場合には、10中10、黒星病が発生するとお考え下さい。
ただし、黒星病を放置することで“即枯れるのか?”と言えばそのようなことはありません。著しい場合にはもちろん枯れることもあり得ますが、多くの場合には生長が遅れたり花が咲かないなどの残念な状態には陥るものの、株自体は緩やかながらも成長していきます。必要以上に恐れず、また神経質になりすぎず“長い目でバラの成長を見守る視点”が好ましいでしょう。
耐病性まとめ
ご覧のように2大病のうち、うどんこ病に「かなり弱く」、そして黒星病への抵抗力も「弱い」ことから、病気に強い抵抗力を備えている品種ではありません。
樹勢
樹勢が強く、悪条件に耐えます。
樹勢が強いため、施肥量が適切なら、1mを優に越える高さになります。地植えであれば2mさえ越えてきます。
耐病性の弱さを補うのがこの樹勢の強さです。病害をものともせず、緩やかながらも生長します。
とげの問題
若い枝は鋭利な細いとげがあります。
「知らず知らずのうちに小さなトゲにやられてる」といったケースよりも、見た目にわかる「鋭さのある長いトゲがストレートに突き刺さってくる」という感じです。
若い枝に対して、古枝のとげは太さを増した無数のとげ。
小さなお子様がいらっしゃるご家庭などで育てるには扱いに注意が必要です。
栽培のコツ
普通のバラよりも施肥量多めが良い
四季咲き性のバラは幾度も花を咲かせるため一般的に肥料食いですが、その中でもさらに多めの施肥量が必要です。野菜など他の植物なら枯れてしまいかねない量であっても大丈夫です。
逆に肥料が少ないと、鉢植えの場合には花が咲きません。特に鉢植えでは肥料を多めにするのが栽培のコツです。
花後の剪定は深めに行う
花を切ったあとに意識した方が良いのは剪定を深めに行うことです。
花がらを切った位置でそのままにしておけば、その位置から更に大きく伸長していきます。施肥量が充分な場合にはこれを2,3度経るだけで2mを越えてくる場合があります。こうならないように、花を切ったあとにはその都度枝を深く切り戻すようにしましょう。
適する栽培方法
鉢植え、地植えのいずれもそれぞれに難しさを感じる品種です。
鉢植えでは、
- 施肥の分量をコントロールするのに注意する必要があり、肥料不足は花が大きく減る。[中級者以上の知識が必要]
- 施肥量を誤るとうどんこ病に弱い株に育つ。[うどんこ病の多発に悩まされる]
- 太いとげに育った翌年度以降の冬の鉢替えの大変さ。[寒い冬の体力仕事]
などの問題が伴います。手間暇が増えるのでその分難易度が高まります。
他方、地植えでは、
- 雨露に弱い品種なので黒星病と正面から付き合っていくことになる。
といった問題が伴い、どちらを選んでも難しさがあります。
私の考えは、
- 多くの地力を要する品種であると感じること。
- 地植えしておけば植え付け時に施肥をしておけばひとまず足りるので日々の負担が減ること。
- 雨に弱い品種ながら直ちに枯れるわけではないこと。
などの理由から地植えをおススメしておきます。株の根元を中心に、半径60㎝程度を確保しておくと良いでしょう。
結論:育てやすいか?のまとめ
樹勢の強さはあるものの、はっきりと育てやすいとは言いにくい品種なのが率直なところで、やや大変さが伴う品種です。(中級者~上級者向き)
初心者が最初のバラに選ぶには適さないと思われます。
五感で楽しむ
花びらを食べて楽しむ[生食]
このバラの花びらを食べてみた感想としては、少し苦みがあるが肉厚な花びらが適度に歯ごたえがあり食べごたえがあります。
嫌なえぐみもほとんどなく、ダマスク・モダンの香りがほのかにするのが特徴。
<召し上がり例>
- 花びらをそのままハチミツなどにつけて食べる。バラを食べる最もオーソドックスな召し上がり方。気持ちが高揚し、優雅な気分に浸れます。
- サラダに混ぜ込む。甘めのドレッシングがパパ・メイアンの味と雰囲気に調和する。
- etc.その他の利用方法は今後時おり紹介していこうと思います。
バラエキスを抽出して楽しむ
<バラジュースの作り方>
- 花びらから水だしや熱湯などでエキスを抽出する。(抽出方法は様々ある。)色素と成分が移り、朱色に変わる。
- 抽出水のままでは甘味がないのでシロップや砂糖などで甘さを加える。
- 他の色(青や黄色や白色など。)のバラ花弁があれば、これらをカットしたものでバラ氷を作っておく。
- ジュースと異なる色合いのバラ氷を加えて出来上がりです。
<バラかき氷の作り方>
- 抽出方法は同じ。
- 抽出水をそのまま凍らせる。
- あとは通常のかき氷と同じ製法でOK.
眼で楽しみ、鼻で楽しみ、そして舌で楽しんでいく我々ローズフェスタが提案する五感で楽しむバラのレシピの紹介でした。
なお、食べられるバラ(エディブルローズ)はこの品種に限られません。エディブルローズとなりうる品種の探し方についてはこちらで紹介しました。興味があれば参考になさってみてください。
⇒ [探し方を伝授]エディブルローズ(食用バラ)の可能性を語る旅路
ドライフラワーで楽しむ
ローズフェスタの「ドライフラワー・パパメイアン」です。
パパ・メイアンのドライフラワーは自宅で収穫したパパ・メイアンを乾燥させることでこのように作ることができます。
これは赤バラ全般に言えることではありますが、乾燥させることで赤みが後退し黒味がぎゅっと凝縮されたドライフラワーになります。
パパ・メイアンのドライフラワーを上手に仕上げるコツは7~8分咲きの状態で乾燥化作業に入ることです。
完全に開き切ったあとにドライフラワーを作ろうとしてもどうにも上手く仕上がりません。
花が開くよりも前に早めに収穫し、そしてなるべく花びらが閉じている状態に近いうちに乾燥化作業に入る、これがポイントと感じます。
本稿のまとめ
よく知られた黒バラの銘花「パパ・メイアン」の栽培実感をお届けしました。良くも悪くも典型的な“バラらしい”バラです。
品種の性質からすると本来は中級者以上向けのバラという印象ですが、食用としても楽しめるなど単に花を愛でること以上の楽しみをもたらしてくれる品種です。これからバラを育ててみたいと思われた方も本稿などを参考にぜひ挑戦なさってみてください。
なお、こちらの記事ではパパメイアンと同じ(分類の)赤系統のバラを紹介しています。
⇒ おススメの赤バラ|200種類以上の赤系統から選んだお勧め品種 であなた好みの品種に出会えるかもしれません。
本稿が皆様のより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
写真・記事の無断掲載・転載を禁止します。
パパ・メイアンの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇