雄々しく猛る深紅の大蛇のようなバラ[ムンステッド・ウッド]の栽培実感

黒赤紫のバラ「ムンステッド・ウッド」の8分咲きの花姿。

「イングリッシュ・ローズを育てたい」と希望されるあなたへ。

  • イングリッシュローズを育ててみたい
  • 初心者でも育てられる品種がいい
  • 強い香りがいい
  • (色は)赤系がいい

もしもあなたにこのようなニーズがあるならおススメするのはムンステッド・ウッド」です。剪定を除いてはほとんど手がかからずとても育てやすい品種です。しかも比類なき香り。ただ唯一最大の欠点は・・・。

本稿は優秀なイングリッシュ・ローズ「ムンステッド・ウッド」の栽培実感です。

 

イングリッシュローズ「ムンステッド・ウッド」の花の中心部を拡大して撮影した。

 

品種の情報

4基準データ

  • 花色 : 深紅[ブラック+パープル+レッドが混じり合う複合色]
  • 芳香 : ★★★★★☆ [強香|ダマスク&フルーツ
  • 耐病性 : ★★★★★☆ [うどんこ病は「強い」|黒星病は「かなり強い」]
  • 樹形 : シュラブ|適宜剪定した場合にはこんもりとまとまる。or枝を伸ばした場合にはよく伸びて地を這う。

※4基準の考え方はこちらをご覧ください。

⇒ バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準

※こちらの記事ではシュラブ樹形の特徴等について紹介しています。樹形の特徴や魅力を知ることでより一層シュラブ樹形を楽しめるようになります。

⇒ シュラブってなに?|多様・多彩なバラの個性が集まるシュラブ樹形の魅力

 

補足基準データ

  • 花つき : 良い
  • 花もち : 普通
  • 花形 : ロゼット咲き
  • とげ : かなり多い
  • 耐寒性/耐暑性 : 寒さは普通|夏が苦手で下葉が黄変し落葉しやすい。
  • 花径 : 10cm
  • 樹勢 : かなり強い
  • 開花 : サイクル:四季咲き
  • 作出 : 2008年.イギリス
  • 原名 : Munstead Wood

 

イングリッシュ・ローズとは?

20世紀を通してバラ界のメインストリートを席巻していたのは鮮やかで百花繚乱の花色を要し、しかも四季咲き性を備えたモダン・ローズ系統のバラでした。オールドローズ群に見られる優しい花色と花形、そして芳醇な香りの魅力がバラ界から半ば忘れ去られた存在に甘んじていたのは、ひとえにオールドローズに属する大部分の品種が四季咲き性を持ちえなかったからに他なりません。

一季咲きのオールドローズ品種では、もはやモダン・ローズの四季咲きに慣れたバラ愛好家達を満足させることができなくなっていたのです。

20世紀半ばに登場した英国の育種家デビット・オースチン氏の試みは、このオールド・ローズとモダン・ローズ双方の長所を融合せんとすることにありました。

  • オールド・ローズ特有の優しい花色と花形
  • オールド・ローズ特有の芳醇な香り
  • モダン・ローズ特有の四季咲き性
  • モダン・ローズ特有の多彩な花色

これらを兼ね備えた全く新しい品種を生み出すこと。

オールド・ローズ群とモダン・ローズ群に見られる長所を融合する試み、それがイングリッシュ・ローズ誕生のきっかけ(歴史)と理解されています。

これら4つの特徴こそ今日ひとつの巨大な体系を成しているイングリッシュ・ローズを紐解くキーワードでもあります

このような歴史の中で、ムンステッド・ウッドは耐病性の強さを備えたをイングリッシュ・ローズとして登場しました。

 

外観上の特徴

イングリッシュ・ローズの品種のほとんどはシュラブ樹形に属し、四季咲き性を有して冬季を除く春~秋に繰り返して何度も開花します。

 

開花

バラ「ムンステッド・ウッド」のつぼみ。

 

バラ「ムンステッド・ウッド」のつぼみが開いた咲きはじめ頃。

 

花の魅力

開花したイングリッシュローズ「ムンステッド・ウッド」の花姿。[撮影者:花田昇崇]

ロゼット咲き(花芯が一つ)の美しい花形

 

荒々しい深紅の花色

中心部位は赤黒く、縁はパープルが足された色合い。優しさを感じる色合いというよりは、むしろ男性的な力強さ。それがこのバラの花色の印象。

女性的な色合いを多く感じるイングリッシュ・ローズのなかで2000年以降に多く登場するようになった男性的な色味の一系統にこの品種も属しています。

 

ムンステッド・ウッドの咲き終わり(散り際)頃。

 

ムンステッド・ウッドの散り際の花姿。

花びらが少し崩れてきているが、崩れ落ちる最後のそのときまで踏みとどまる。

 

花もち

花もちは「普通」程度です。

とはいえ花びらが散るまでロゼット咲きの花形が崩れることなくその形をとどめ、そのまま花びらが散っていくので見苦しさがありません

※「ロゼット咲き」をはじめ、バラにはさまざまな種類の花形があります。

⇒ 花びらと花のかたちで見る「花の表記」の読み歩き

気温や雨風の影響により左右しますが、目安としてはだいたい「3日」を基準としてその前後1~2日程度でしょうか。

色味は時間の経過によりやや退色するものの、開き始めから散り際まで最初の色味を“ほぼ”残している点が見事。

 

花つき

花つきが良い部類です。

株の充実具合にもよりますが、しなやかな枝をよく伸ばすため、枝の分枝からも多くの花をつけます。

つぼみは3~5輪ほどの房となり、順番に咲いていきます。

春の一番花が特に見事です。

 

香り

非常に強いダマスク香で初めて対面した者はたじろぐほど。

強いダマスク香に軽く爽やかなフルーツの甘みがうっすらと香ります。デビットオースチン社の調香師によれば「ブルーベリーにすももが混ざったような香り」とも。

いずれにせよ強い芳香をもつ香りのバラであるのは間違いがなく、一度かげば脳髄をとろけさせられるほどの香りの魅力に押し倒されるやも知れません。

 

葉の様子

展開直後の若い葉の様子はこちら。

バラ「ムンステッド・ウッド」の若い葉

 

時間が経つと落ち着いてこのようになる。

バラ「ムンステッド・ウッド」の古い葉。

暑さに弱く、水切れで黄変しやすい。しかし樹勢にはあまり影響しない。

 

育てやすさについての私の実感

耐病性

バラはさまざまな病気にかかり、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。

この2大病の耐病性が強い」品種です。

安心して育てることができます。

 

うどんこ病への耐病性

うどんこ病に「強い」品種です。

[※表記の参考 : 普通 < 普通よりも強い < 強い < かなり強い < 最強 ]

施設栽培ではうどんこ病にかかることがあるものの、露地栽培ではほとんど発生しません

たとえ発生してもさほど広がらないため神経質になる必要はありませんが、もし気になれば重層や食酢[ 食酢はうどんこ病・ハダニ・窒素過多の解消に効能があります ]を散布することで足ります。

とはいえ、基本的には著しい病葉のみを切除するなどの対策でよいでしょう。

 

黒星病への耐病性

黒星病に「かなり強い」品種です。

[※表記の参考 : 普通 < 普通よりも強い < 強い < かなり強い < 最強 ]

同じイングリッシュ・ローズでの赤黒系での、例えば「ウィリアム・シェイクスピア2000」などと比べても黒星病への耐性は格段に増しています。

 

とげの具合

バラ「ムンステッド・ウッド」の鋭いとげ。

凶悪なまでに荒々しい大小のとげが株全体にびっしりと密集する。

 

ムンステッド・ウッド最大の欠点は、間違いなくとげ

凶悪なまでに荒々しいとげがあります大小さまざまなとげは株元から枝の先端にいたるまで株全体に密集し、素手での作業が全く危険なほど扱うには皮手袋が不可欠です

そして、若い枝は柔らかくムチのようにしなるので、風に揺れるしなやかな枝のとげが衣服に絡みつくなどの被害をもたらしやすい。株まわりにも注意が必要

このバラを育てるにあたっては、このような荒くて猛々しいとげとの付き合いが宿命としてついてまわります。

そのため「地植えであれば育てる場所を、鉢植えであれば置く場所を選ぶバラ」ということになろうかと思います。

 

樹勢

樹勢はとても強い

樹勢が「かなり強い」品種です。

非常に旺盛に生長するシュラブなので成長速度の点では何らの心配もいりませんぐんぐんと生長します

 

鎮めることを怠ればあらわれる。荒ぶる神話の怪物

強すぎる樹勢のため、樹勢をコントロールすることに気を配ることがポイントです。

枝の剪定を浅めにとどめたり、そもそも剪定を行わなかった場合には樹勢の強さに任せて大いに伸びます。

地を這うようにまで伸びることも多々あります

枝先についた赤く黒く紫の顔は、茂った鈍い色の葉としなる枝や凶悪なとげの体躯と相まって、さながら出雲神話にあらわれた深紅の大蛇「ヤマタノオロチ」の獰猛な姿を連想させます

定期的に鎮める[=剪定をすることが大切です。[後述]

 

写真の奥側に写った1輪の「ムンステッド・ウッド」の花姿。

 

栽培のコツ

水・肥料は多めが良い。薬剤散布はお好みで

耐病性・樹勢ともに強い品種のためさほど手がかかりません

地植え|とにかくラク

地植えであれば冬に元肥を与えておけば、それだけであとはさほどに手をかける必要がありません。

鉢植え|水を好むので水量に注意

鉢植えであれば施肥と水やりに注意します。

旺盛な成長を補ってあげるのに大切なことは人間が施す肥料です。規定量を守り、それよりもやや多めの施肥がおススメです。

水を好む品種なのでこれもやや多めが良いでしょう。水不足だと葉が黄変しやすくなります

薬剤散布はお好みでOK

薬剤散布は不可欠ではありません。

もしも何か手間暇をかけたいということであれば、化学農薬は避けて、うどん粉病の対策に特定農薬の「重層」などを希釈して散布するだけで充分な効果が見込めます。

 

剪定に注意が必要

既に見てきたように旺盛に茂るバラです。

剪定に注意が必要です。夏と冬の年2回の剪定はきっちりと行う必要があります

  • の剪定=枝を樹高の半分に切り戻す
  • の剪定=枝を樹高の3分の1~4分の1に大胆に切り戻す(3分の2以上は切って捨てるということ)

地植えの場合において冬や夏の剪定を浅めに済ますと、生長しすぎるためしなやかな枝が自らの重みで沈んで地を這うようになり、ヤマタノオロチと化します

他方で、鉢植えの場合において冬や夏の剪定を深めにしておけば、木立ち性のバラのように扱うこともできます

剪定を深めに行うか、それとも浅めにとどめるかで育て方に違いをもたせることができます。

 

適する栽培方法

地植えであれば巨大で獰猛なシュラブへと育て上げることができます。

鉢植えであればコンパクトに仕立てることもできます。

いずれを求めるかは、スペースの問題などのご自身の環境によって決めてください。

私のおススメは、ムンステッド・ウッドの強さを生かした地植えです。

ヤマタノオロチ化までさせるかどうかは個人の好み次第ですが、いずれにしても見事なシュラブになるはずです。

 

結論:育てやすいか?のまとめ

以上見てきたように、耐病性が強いうえに樹勢もとても強い品種なので、たとえ育て方に失敗があったとしてもそれに負けずに乗り越えていける大変育てやすい品種です。[初心者向き]

バラの知識がゼロでも育てられる。そんなイングリッシュ・ローズだと思います。

[ただし剪定を間違えれば大蛇化してしまう可能性はお忘れなきよう。]

 

2輪のバラ「ムンステッド・ウッド」の花姿。[撮影者:ローズフェスタ]

 

その他のイングリッシュ・ローズ

  • クリアーオレンジの「レディ・エマ・ハミルトン」

フルーツの香りと耐病性のバラ[レディエマハミルトン]の栽培実感

  • イングリッシュ・ローズが咲き誇るデビット・オースチンのローズガーデン、園内の様子はこちら。

⇒ デビッド・オースチン・ローゼズ社のバラ園|大阪府泉南市

 

本稿のまとめ

さて、いかがだったでしょうか。

イングリッシュ・ローズの「ムンステッドウッド」について紹介しました。

なお [初心者必見]4基準から導くおススメの「シュラブ」ローズ10選 では、ムンステッドウッドを含む育てやすいシュラブ樹形の品種を紹介しています。まだご覧になられてない方は参考になると思います。

本稿が皆様のより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?

 

写真・記事の無断掲載・転載を禁止します。

ムンステッド・ウッドの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇

error: Content is protected !!(クリックできません)