あんず色が美しいフロリバンダ品種「フレグラント・プリコット」は、花つきよく、バラらしいダマスクの香りを強く放つ強香品種です。
この品種の最大の特徴はうどんこ病への抵抗力が比較的強い点です。そして株が大型化しないので鉢で育てるのも向きます。広くないスペースの場所で鉢を密集させて育てていても比較的うどんこ病が生じづらいのがメリットです。
本稿は、うどんこ病に強くて香りの強いバラ「フレグラント・アプリコット」の栽培実感です。
目次
品種の情報
4基準データ
- 花色 : アプリコット [あんず色]
- 芳香 : ★★★★☆☆ [強香]
- 耐病性 : ★★★★☆☆ [うどんこ病に「強い」|黒星病に「普通よりも強い」]
- 樹勢 : 木立ち性・フロリバンダ|コンパクトにまとまる
※4基準とはバラ入門者の方がはじめてのバラを選ぶうえでの指標となる4つの判断基準です。さまざまにある選択要素のなかから最も重要な4つの基準を紹介しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
⇒ バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準
補足基準データ
- 花つき : 良い
- 花もち : 良い
- 花形 : 半剣弁カップ咲き
- とげ : 少数の鋭いとげ
- 耐寒性/耐暑性 : 普通[冬|普通/夏|普通よりも強い]
- 花径 : 10㎝前後(春の一番花基準)|中輪
- 樹勢 : 普通
- 開花サイクル : 四季咲き
- 作出 : 1999.アメリカ
- 原名 : Fragrant Apricot
※「半剣弁カップ咲き」をはじめ、バラの花形にはさまざまなものがあります。
⇒ 花びらと花のかたちで見る「花の表記」の読み歩き
※補足データは4基準に準じる2次的な基準です。4基準ほど育てやすさに直結するものではありませんが個々の花の個性を形づくる情報です。
外観上の特徴
フレグラント・アプリコットは四季咲き性の品種で、冬期を除く春~秋に繰り返して何度も開花します。
「フレグラント=良い香りの」+「アプリコット=あんず」
外観上の特徴は上のタイトル通りで、品種名が特徴をよくあらわしています。可愛らしいあんず色の花色に強い香りがのった思わず惹きつけられるバラです。
香りの強さが大きな魅力ですが、この品種のようなフロリバンダ品種で香りの強い花はじつはさほど多くはありません。
フロリバンダ系統のバラは、大輪品種と比べてひと枝にたくさんの花がつき、それら多くの花がそれぞれに香ってくるのは嬉しいですね。
つぼみ
開花の様子
とにかくかわいいつぼみが魅力。思わずつかんで口に入れてしまいそうな、フルーツのようなつぼみ。
まるで赤子のような、見ているだけで癒されるようなかわいいつぼみです。
徐々に開いていきます。
花色
咲きはじめの最初の頃はみずみずしく柔らかい花びらの質で、中心が熟れた果実のような濃い桃色に全体的にアプリコットの色味。
もっともこの色味は低温期のもので、高温期は全体的にアプリコットカラーになります。
時間が経つと次第に中心の濃さが全体に広がっていき、アプリコット色が全体に広がるとともに瑞々しさも徐々に落ち着いていきます。
横に開いて広がるとともにやがてこのような落ち着いた色合いへと変化していきます。
そして散る間際はこのように。形は崩れるものの香りは残っています。
花つき・花もち
花つきと花もちがともに優れています。
花もちは、時期と環境により左右されますが、おおむね4日~1週間程度と比較的長く楽しむことができます。
切り花にして楽しむこともできますが、そうすると長く芳香を維持できないません。切らずに咲かせたままで楽しむのがおススメです。
房となって咲くフロリバンダ系統の品種なので、よく育った株については花が次々に上がってきます[多花性]。
⇒ フロリバンダってなに?|枝先がブーケのように咲くバラの楽しみ方
多花性の品種はよく花を咲かせてくれるので、たくさんの花から香る芳香で天然の香水に囲まれた気分に浸ることができます。良い香りは気持ちを豊かにしてくれますよね。
葉の様子
育てやすさについての私の実感
耐病性
バラはさまざまな病気にかかり、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。
この2大病の耐病性が「普通よりも強い」品種です。
詳細を見ていきます。
うどんこ病への耐性
うどんこ病への抵抗力が「強い」品種です。
[※表記の参考:普通よりも弱い < 普通 < 普通よりも強い < 強い < かなり強い < 最強 ]
うどんこ病への心配はあまりありません。仮に周囲がうどん粉病の株に囲まれていたとしても容易に感染しません。あるいは、たとえ一部の葉に感染が見られたとしても株全体にやすやすと連鎖感染することはありません。この点が素晴らしい。
ただし、念のため手軽な無農薬手法での予防を日常の管理に組み込むとさらに安全です。
黒星病への耐性
黒星病への抵抗力が「普通よりも強い」品種です。
[※表記の参考:普通よりも弱い< 普通 < 普通よりも強い < 強い < かなり強い < 最強 ]
ただし、6月以降の梅雨時期からは黒星病が見受けられます。早めの段階で薬剤を散布するか、またはなるべく感染しないように雨露の当たらない環境で育てるなどの工夫が必要です。
なお、サプロール乳剤は黒星病の初期症状に薬効が認められるので初期状態であればこの薬剤で治癒させることができます。 [保存版]500mlペットボトルで超簡単にバラの消毒を行う方法 で6ステップで簡単にサプロール乳剤を散布する方法を紹介しています。
耐病性まとめ
ご覧のようにうどんこ病への「強さ」が認められ、黒星病へも「普通よりも強い」品種です。
耐病性は「普通よりも強い」品種と思います。
樹勢
「やや弱い」~「普通」の強さです。
黒星病を放置したままだったり夏の熱さで葉を落とした場合には、そのまま枯れ込む場合もあり得ます。
とげの具合
少数の鋭いとげがあります。取り扱いには注意が必要です。
ただし、目視ではっきりとわかる大きさのとげなので少し触れるだけであれば当たらないように注意すれば管理できます。
栽培のコツ
日照時間(直射日光の問題)|日陰でも育つ?
この品種は日陰でも育つ品種と言われているようです。
しかしこれはどうなのでしょうか。トライアルのために日陰の環境で1株だけ生育したことがあります。すると株は成長するものの花つきが良いとは言えない状況だったのが私の実感です。
「日陰でOKな品種」とはっきりと言い切るのには少し抵抗があるように思われます。ですがこれは「1年間」でみた感想なので、2年3年と栽培期間を長めにみれば花つきが良くなるのかも知れません。
生育については1日3時間の日照時間で大丈夫でしょうが、花つきの良さを期待するなら3時間では足りないように思われます。日陰環境で育てるなら長い目で育てる気持ちが肝要です。
[なお、人間がそうであるように植物にも、そしてバラにも株ごとの個体差があります。テストした上記の株がたまたまそうだっただけという可能性もあります。ですので上記の私の実感は参考とするにとどめておいてください。]
施肥量(肥料の問題)
このバラの場合には、標準的な量よりも施肥量は多めにするのが良いです。多くの花を咲かせる多花性の品種はより多くのエネルギーを必要とします。
例えば人間がハードなスポーツをすると激しく体力を消耗するように、植物も開花すると株内のエネルギーを大きく消費します。肥料でそのエネルギーを補い、スムーズに次の開花につなげるための手伝いをしてあげる必要があります。
施肥を怠っている場合には、(株の成長具合によりますが、)鉢で育てているなら花が咲かなくなるケースがあります。エネルギー不足のためです。
ローズフェスタでの昨年度の調査では、施肥が少なめの鉢は同条件の他の品種のバラと比べて開花数が格段に少なくなっていました。
鉢栽培の場合には定期的な施肥を忘れないようにすることが大切です。
適する栽培方法
鉢植えがおススメ
株としてのまとまりが良い品種です。株が暴れず鉢のスペースに収まりやすいので鉢栽培に向きます。
- 庭の空きスペースに余裕がない
- ベランダで育てたい
- 鉢で育てられるバラを探している
これらのうちどれかに当てはまる方はこの品種を鉢で育ててみましょう。
バラをはじめて鉢で育てる方にもおススメの品種です。
どんな鉢のサイズがいい?
鉢のサイズは、基本的には8号[直径24㎝。土の容量=約5.1ℓ]でよいと思います。これを下回るとこの品種のポテンシャルが発揮されないかもしれません。
できれば10号[直径30㎝。土の容量=約8.4ℓ]サイズをオススメします。上の写真も10号サイズの鉢です。
なお、10号サイズは少し場所をとるので万人におススメするものではありません。可能であれば、という話です。8号サイズだとうまく咲かないというわけではありません。
本稿のまとめ
本稿ではフレグラント・アプリコットを紹介してきました。2大病のどちらの耐性も備えているので初心者でも比較的育てやすいバラです。
なお、こちらのバラ園で直接見ることができます。気になる方は足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
⇒ RSKバラ園|400品種・15000株のスケール|岡山県岡山市
本稿が皆様のより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
写真・記事の無断掲載・転載を禁止します。
フレグラント・アプリコットの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇