遥か昔から多くの人を魅了してきたバラは、少数の原種のバラを人の手で人為的に交配させることで新しい品種が生み出されてきました。バラの歴史は品種改良の歴史です。その結果、今やバラの品種群は数万を超えるほどになっており、また、さらに毎年数多くの新品種が次々と発表されていることから、個々の品種について「このバラの特徴は?育てやすさはどうなのか?」という率直な栽培実感を得る機会は案外多くないのではないかと思います。
読者のバラ選択時における一資料となるよう、当ローズフェスタで実際に栽培している品種についての魅力や特徴、さらにウイークポイントなどを“率直に”書き述べる「品種紹介コンテンツ」をシリーズとして書いていくことにしました。どこかで見た情報を貼り付けただけのコンテンツではなく、無数の品種を見てきた管理人の独自の考察に基づく紹介です。
第一弾は、「ミミ・エデン」
読者の方がご自身のバラを見つけられるきっかけになれば嬉しく思います。
“ その美しさ、折り紙つき。そのかよわさも、折り紙つき。 ”
目次
品種の情報
4基準データ
- 花色 : ピンク&ホワイトのダブルカラ―[時間が経つにつれてピンク一色に近づく]
- 芳香 : ★☆☆☆☆☆[無香~微香]
- 耐病性 : ☆☆☆☆☆☆[うどんこ病に「最弱」。黒星病に「かなり弱い」]
- 樹形 : 木立ち性・ミニフローラ[横張り|1.0m×1.2m]
※4基準とはバラ入門者の方がはじめてのバラを選ぶうえでの指標となる4つの判断基準です。さまざまにある選択要素のなかから最も重要な4つの基準を紹介しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
⇒ バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準
補足基準データ
- 花径 : 5㎝
- 花もち : 大変良い
- 樹勢 : 弱い
- 開花サイクル : 四季咲き
- 作出 : 2002年.フランス
- 原名 : Mimi Eden
※補足データは4基準に準じる第2次的な基準です。4基準ほど育てやすさに直結するものではありませんが個々の花の個性を形作る情報です。
外観上の特徴
花色のうつろいが楽しめる品種
鉢と地植えで計10鉢(※現在:計20株)ほど育てています。扱いはじめる前から「うどんこ病に弱い」といった話を聞いていたことからまずはテストの意味で育て始めてみました。
絶妙な色合いが魅力の品種ですからとてもワクワクしながら栽培をスタートしたことを覚えています。ウィークポイントは耐病性にありますが、この点は後述します。
咲き進むにつれて以下のように花色が変化していきます。時間の経過とともに以下でご覧いただくように花色が変化します。可憐でいて可愛らしい花色の変遷はミミエデンの大きな魅力だと感じています。
開花直後|開きたての花色
開花初期|果実のようなみずみずしさがある
咲はじめた当初には中心部分がピンク、外側がホワイトのダブルカラ―で、フルーツのような、ちょっぴりおいしそうな感じにも見える。また、フロリバンダ品種のように枝の先が数輪の房になって咲くので花数は多め。
※フロリバンダ品種ってなに?と思われた方はこちら。
⇒ フロリバンダ(F)ってなに?|樹形の特徴|枝の先端がブーケのように咲く品種の楽しみ方
開花中期|中心部のピンクが外縁に向けて拡大する。フルーツが熟れていくようなイメージ
開花初期と比べ、花色の割合が全体的にピンクへと染まっていきます。
フルーツが熟していくように次第にピンクが広がる様子を毎日眺めているとより一層に愛着が増します。
時間の経過とともに変化していく花色。単色のままではないから眺めていて飽きのこない美しさがあります。
開花後期:全体がピンク色に染まる
中心より徐々に広がってきたピンク部はさらに拡大し、やがて花全体がピンク一色に染まっていきます。
花もちがとても良く、おおよそ1週間~10日ほどの長い期間その姿を楽しむことができます。(※時期により前後します。)
この品種の長所のいくつかはご覧のような美しい花色の変化と花もちの良さにありそうです。
育てやすさについての私の実感
結論。育てづらい品種
結論から言うと育てづらい品種です。
その理由は、端的に、
- ミニバラ扱いの品種なのに、スペース(場所)を多くとる。
- 耐病性(うどんこ病の弱さ)に大きく問題がある。
の2点が気になります。特に耐病性が非常に弱いことがネックです。
以下、順にみていきます。
短所1 : スペースを多くとる
バラを鉢で栽培する場合について特に気になる点ですが、確保しなければいけないスペース(場所)の問題は、品種を選ぶ上でとても重要なファクターです。(一坪あたり2鉢置けるか3鉢置けるか…といった問題。)
バラを鉢で楽しむのならやはり限られたスペースでなるべく多くの品種を育てたいと思われる方が多かろうと思いますのでスペースの問題は重要です。
ミミ・エデンは分類上ミニバラとして扱われますが、すでに品種データで記載した通り、その樹高や樹形は一般的なミニバラのそれと比べて大きめです。平均的なハイブリットティー品種に負けず劣らずの大きさです。
左右の横方向に枝を伸ばす横張りの性質もあるため、育ってくると一坪にミミ・エデンの鉢を1鉢しか置けない状態になりがちです。
スペースを多く要する品種。これは私の感覚では短所です。
短所2 : 耐病性に特に劣る
バラは様々な病気にかかりますが、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。
この品種の最大の特徴は、この2大病のいずれにもかなり弱いという不名誉な点にあります。うどんこ病に対する抵抗力の弱さは特に目を引き、誰が言い出したのか「うどんこ病の女王」と揶揄されるほど。
私の栽培実感としても指摘されるこの点はまさしくその通りだと感じます。
うどんこ病への耐病性
うどんこ病への耐病性が「最弱」品種です。
[※表記の参考: 最弱 < かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通 ]
数多くあるバラの品種のうち、近年作出されたもののうち比較的名の知れたもののなかではトップクラス級の弱さの気がしています。
春頃はまだ減農薬(無農薬)でなんとか発症を抑えることができるものの、真夏を挟んだ前後、特に初秋以降は酷い有様になります。初秋以降には減農薬栽培、殊に無農薬栽培は著しく困難と思われます。
ニームオイルや米ぬかを撒く程度でなんとかなるものではなく、これらの減農薬・無農薬による対処法にのみ依拠していれば粉まみれでとても鑑賞にたえる状態ではなくなります。また、真っ白な膜に覆われたつぼみからは花も開きません。
風のそよぐたびに舞ううどんこ病の胞子はあまりに不衛生です。
※うどんこ病とはどんな病気?と思われた方はこちら。
⇒ うどんこ病の症状|風が運ぶ脅威。季節はずれの粉雪がもたらす病害
うどんこ病は菌が風に流されて空気感染することで広がります。このためうどんこ病に弱いミミ・エデンが一株あると、これが感染源となって他のバラへ病害をまき散らす可能性は少なくありません。バラが複数あれば定期的な薬剤散布が不可欠の品種と言って差し支えありません。
バラが複数ある場合には、春から秋の生育期には1週間に1度以上、予防薬の散布を推奨します。2週間に1度のペースでの散布間隔では少しあきすぎかもしれません。発症した場合には治療薬も加えるようにしましょう。
なお、以下の記事ではうどんこ病の初期症状に効く「いわゆる無農薬手法」(※特定農薬)を紹介しています。発生初期に繰り返し散布することで効果があり、蔓延状態になることを抑制します。比較的安全な防除方法なので小さなお子様がいらっしゃるご家庭でも安心して行える手法です。
⇒ 食酢はうどんこ病・ハダニ・窒素過多の解消に効能があります
なお、蔓延状態に至ったら迷わずすぐ下の「500mlペットボトル~」で紹介している記事を参考に化学農薬の散布を行いましょう。枯れてしまう前に。
黒星病への耐病性
ミミ・エデンは黒星病にも「かなり弱い」品種です。
[※表記の参考: 最弱 < かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通 ]
薬剤での防除を考えるとか、またはなるべく雨露の当たらない環境で育てるなどの工夫が必要です。
なお、「サプロール乳剤」は黒星病の初期症状に薬効が認められます。
⇒ [保存版]500mlペットボトルで超簡単にバラの消毒を行う方法 で6ステップで簡単にサプロール乳剤を散布する方法を紹介していますので参考にしてください。
育てやすいか?のまとめ
薬剤散布が不可欠の上級者向け品種
ミミ・エデンという品種は、畢竟(=つまり)、各種の薬剤の知識が当然のようにあり、日々の手間を惜しまずにバラと向き合える時間的にも余裕のある栽培の上級者向けの品種と言って差し支えなかろうと思います。
初めてバラを育てようとされる方におススメはできません。
ミミ・エデンをキャッチコピー化すれば、
“ その美しさ、折り紙つき。そのかよわさ、折り紙つき ”
といったところでしょうか。
上級者向けの品種であり栽培技術に自信のある方用の品種です。
育てるのに向く方
この品種に向くのは以下に当てはまる方ではないかと思っています。
- 既に数年間のバラ栽培経験のある方(中・上級者)
- 日ごろからバラの健康状態をチェックできる方(日々チェックを怠らない)
- 薬剤の知識が一通りある方
- 肥料の知識が一通りある方
など、上記これらの2項目以上に当てはまる方でしたら大丈夫かと思われます。
本稿のまとめ
ここまでご覧いただけた読者のなかには「ミミ・エデンはやめとこう。」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。「楽しい!」ということよりも「大変だ!」という感想は実際その通りだと思います。ですがこれがミミ・エデン栽培の現実であり、私の率直な実感です。
バラの栽培は手軽で育てやすい品種だけに魅力があるとは限らないと思っています。およそバラへの愛情は手間暇をかけた分だけより一層愛おしく感じるようになるものですし、それが多種多様な個性が存する「バラという種」を育てる楽しみの奥深さなのだと感じています。
上手に咲かせたいものですね。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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ミミ・エデンの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇