厳冬のよく晴れた日にキラキラと舞う粉雪は情緒があって素敵ですが、バラ栽培において季節はずれに見る雪さながらの白い粉には注意が必要です。
突然に葉や茎の表面に浮かんだ白い斑点は、やがて粉雪[パウダースノー]のような粉末状になって風が周辺へと運びます。ご存知なければ一見してロマンティックと錯覚するかもしれないこの粉雪の正体はうどんこ病という病害です。バラ栽培につきまとう病気で、これにはまず予防が大切で、そして発症後には早めの対処が必要です。
本稿はうどんこ病の一般的な内容を扱います。うどんこ病がいかなる病害であるか、被害部位の様子、発症を抑える栽培環境などについて説明しています。
目次
うどんこ病とは
うどんこ病っていったい何?
昼夜の寒暖差や乾燥状態下に生じるカビ[白斑・白粉]によって引き起こされる病害で、おもに若い葉や枝に発症します。
はじめぽつぽつと生じる白斑[カビ]は、やがて急速に増殖して白粉状となり、やがては一面を覆うほどに増殖します。[※後掲の写真参照]
病名でもあるうどんこのような白い粉のカビ菌が空気中を伝染し感染します。
黒星病(クロホシビョウ)と並ぶ「バラの2大病」のひとつとして知られている病気で、〝花”としての観賞価値を著しく損なわせる恐ろしい病気です。
気温21℃前後で発症しやすい
この病気は気温が適温になることによって生じます。
21℃前後が発症しやすい気温と研究されています。菌の生育はおおむね18℃~25℃が適すると分析されているようです。
そのためこの病気は、私たちが過ごしやすいと感じる穏やかな気温のころに要注意の病気とお考えだくさい。
春先と秋におもに発症する[露地栽培の場合]
季節でいえば、春と秋におもに発症します。
時期でいえば、
- 3月下旬ころ~4月上旬ころ[=春]
そして、25℃を超えて気温が上がっていく夏場にはいったんピタリとやみます。そして、夏が終わって気温が下がってくると再び活動を再開し、
- 10月中旬~11月半ば[=秋]
にかけて猛威をふるいます。
かかったらどうなるの?うどんこ病の被害の様子
うどんこ病が「害」とされる理由は以下のような被害を及ぼすためです。
- 菌がバラを覆い、生育を阻害する
- 著しく美観を損ない、バラの観賞価値をほとんど完全に失わせしめる
- 放置すると他のバラへの感染源となる
- カビ菌が風に舞い、不衛生
の4つあたりではないかと考えられます。
恐るべき点は強い感染力です。うどんこ病に無頓着であればすぐに最初の被害株を白い粉で覆いつくし、のみならずその最初の株はあっという間に他のバラへの感染源になります。
放置して自然の治癒に委ねるのはよくありません。
うどんこ病がいかなる病害なのか、被害の様子や発生条件、予防方法などの知識を知ることでこの病害に備えることが大切です。
まずはうどんこ病が発生する部位とその写真から確認していきます。
発症部位を知る。日々の観察でいち早く見つけよう
うどんこ病はおもに以下の部位に発症します。
- 若い葉の表、裏
- 新芽
- 新しい枝、とげ
- つぼみ・下・がく
などです。
特徴は、若く新しい部位に発症しやすい点です。[ただし、古い部位にまったく発症しないわけではありません。]
[若く新しい部位を中心に生じるので、目安としては株の上のほうに発生しがち。]
[※対する黒星病は古い葉がかかりやすいため株の下部に発生しがち。]
確認しよう。うどんこ病の発生部位
発症している各部位ごとの様子をご覧ください。
若い葉の表
新枝(今年発生したシュート)
つぼみ・がくのした
確認しよう。治癒させやすい初期 VS 手遅れの末期
初期=広範囲に飛散していない段階
菌が広範囲に飛散する前の段階(上記の一連の写真で紹介したように菌が一部位にとどまっている状態)はいまだ発生初期といえます。
治癒が比較的簡単なのでなるべくこの段階で押さえ込みたいところです。
ただし適温にあると増殖スピードが早いため、ほとんど時間をおかずに爆発的に拡大していきます。繰り返しになりますが、早めの対処がとても大切です。
急激に30度を超える炎天下が連日連夜続いたなどでない限りは、自然に治癒するというケースはほとんどみられません。
[※昨今の日本はそういう極端な天候も見られるようになりました。]
末期=広範囲に飛散=株全体を粉雪が覆う状態
一度爆発的に増殖しはじめるとわずか数日のうちに株全体を覆うまでになります。白い粉が株全体を覆い、風がそよぐたびにうどんこ病菌が周囲にまき散らされるようになります。
うどんこ病に侵された株の成れの果てが以下。
写真のようにねじまがり健全な生育がのぞめなくなります。著しく美観も損ないます。
末期段階になると、たとえば息をふうっと軽く吹きかけるだけで大量のうどんこ病菌が風に舞いあがります。
こうなるともはや発生固体だけの問題にとどまらず、うどんこ病菌は風とともに周囲に飛散し近くにある他のバラに影響を及ぼします。
他の健全なバラを脅かす“強力な感染源”がここに誕生を迎えたわけです。
こうさせないための対策をとろう
バラをこのような無残な姿に追いやらないためにはどのような手を打てばよいのでしょうか。
残念ながら末期になれば大幅な剪定と適切な薬剤散布が不可欠です。これ以外では充分な効果はのぞめないでしょう。農薬に頼らない治癒はほとんど不可能です。[農薬は周辺の他の株にも散布するのがセオリーです。]
やはり初期の段階で手を打つことが大事なのだと考えます。
うどんこ病の発症・多発を招いてしまう悪い環境を学ぶことで、発症させづらい日頃の予防環境を整えていくことが大切であることもわかります。
要チェック|病気を助長する悪い環境を学び、予防環境を整えよう
うどんこ病を助長してしまう悪い環境
もしあなたの栽培環境が、たとえば以下のようであればうどんこ病の発生を助長してしまうおそれがあります。
- 株の内側が枝で混みあい、内部の枝葉に全く光が届かず、風もそよがない状態 ⇒ 株の内部が蒸れることで菌が増殖する環境になる場合がある
- 肥料の与えすぎ。特に窒素分の多い肥料を過剰投与した場合 ⇒ うどんこ病を招きやすい軟弱な葉を多く生み出すことになる
あなたのバラがこの1・2にどちらか、あるいは両方に当てはまる場合には至急改善が必要です。
それぞれ次のように改善しましょう。
悪い環境を改善。うどんこ病の予防環境
①株の内側が枝で混みあっている場合の改善方法
- 内側の弱小枝や枯れ枝を適宜剪定して内部に隙間をつくる
- 鉢が複数あれば、鉢を近づけすぎず他の鉢との間にスペースをもうける
②窒素分の多い肥料を過剰投与している場合の改善方法
- まず、日ごろ与えているお手元の肥料の成分表を確認する
- 肥料の3要素(チッソ・リン酸・カリウム)のうち窒素分の割合が他の2要素よりも高い肥料であれば以後はその肥料の使用を差し控える
- 食酢を散布するなどして窒素分の解消に努める
じつは食酢は窒素の解消に効果があります。 食酢はうどんこ病・ハダニ・窒素過多の解消に効能があります で詳しく説明していますのでご覧ください。
発症させづらい環境づくりに取り組もう
うどんこ病は日ごろから上記1・2のような環境作りに努めることである程度発生を抑えることができる病気です。発生しづらい環境づくりに取り組むことはとても有効です。
あるいは発症した場合でも初期であれば比較的治癒も容易です。
本稿のまとめ
さて、いかがだったでしょうか。
本稿ではうどんこ病の症状と予防環境について説明してきました。
本稿がより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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バラの管理/Sentence/All photos:花田昇崇