3年に1度、世界中で愛されたバラを選ぶ「栄誉の殿堂入り」を果たしたバラは数万品種を越えるバラのなかでも特に名高い品種です。「クイーン・エリザベス」(1979年受賞)は2番目に殿堂入りを果たしたバラとして我が国でも広く名の知れた品種です。
本品種は、しばしば「強健品種」「超強健品種」など、「強さ」を伺わせる表現がなされています。しかし、クイーン・エリザベスには強いところもあれば弱いところもあります。少なからず伝聞に基づく情報が独り歩きしている印象があり、少し注意が必要です。例えば、今日的な耐病性の基準に照らした場合には病気に強い品種とは言えません。
なぜ、そうであっても「初心者おススメのバラ」として紹介されるのか?具体的に何が強いのか?
本稿は、桃色の大輪花を一枝に房で咲かせる世界中で愛されてきた枯れにくいバラ「クイーン・エリザベス」の実態を紹介する栽培実感です。
目次
品種の情報
4基準データ
- 花色 : 桃色
- 芳香 : ★★☆☆☆☆ [微香]
- 耐病性 : ★★☆☆☆☆ [うどんこ病「普通」|黒星病「普通よりも弱い」]
- 樹形 : 木立ち性・グランディフローラ
※4基準とはバラ入門者の方がはじめてのバラを選ぶうえでの指標となる4つの判断基準です。さまざまにある選択要素のなかから最も重要な4つの基準を紹介しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
⇒ バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準
補足基準データ
- 花つき : やや悪い~普通
- 花もち : やや弱い~普通
- 花形 : 丸弁平咲き
- とげ : 無数の大小の鋭く太いとげ
- 耐寒性/耐暑性 : 強い[冬:強い/夏:普通よりも強い]
- 花径 : 10cm
- 樹勢 : 非常に強い。主幹は太くがっしりと育つ。直立に伸びる。
- 開花サイクル : 四季咲き
※「丸弁平咲き」をはじめ、バラの花形にはさまざまなものがあります。
⇒ 花びらと花のかたちで見る「花の表記」の読み歩き
※補足データは4基準に準じる2次的な基準です。4基準ほど育てやすさに直結するものではありませんが個々の花の個性を形づくる情報です。
外観上の特徴
クイーン・エリザベスは四季咲き性の品種で、冬期を除く春~秋に繰り返して何度も開花します。
開花の様子
つぼみが開くと徐々に膨らみやがて大輪となります。開花の様子はこちら。
花色・花びら
花色は桃色一色です。水がしたしる濃い桃色の色味はなんとも言えない色気を感じさせます。男性的ではない女性的な印象を受ける花色ですね。
花びらの形もその印象にたがわず丸みを帯びています[丸弁]。
優しい風を受けてたおやかに揺れるクイーン・エリザベスは花の大きさも相まってひときわ優美です。
花つき
花つきはやや弱い~普通程度といったところ。
花のつき方は、ハイブリッド・ティー品種のような大輪花[10cm~それ以上]を咲かせ、同時にフロリバンダ品種のように一枝に3~4つのつぼみをつけます。[グランディ・フローラと分類される系統]
そのため一般的なハイブリッド・ティー品種と比べれば花数は多くなります。
花もち
花もちはやや弱い~普通程度といった印象です。
他の書籍・文献によっては「花もちが良い」との記述も見受けますが、私はあまりそう思っていません。せいぜい普通でしょう。
時期や気温によって左右されるものですが春や秋にはおおむね3,4日あたりかと思われます。
香り
強くはないものの濃厚で甘い香りがします。
香りの強さが欲しければ少し物足りなく感じるかもしれません。
葉の様子
以下の写真は葉っぱ・新芽が展開した直後に撮影したものなので葉に光沢があるように見えるかもしれませんが、光沢はすぐに落ち着きます。
クイーン・エリザベスの葉は強くありません。縮れやすく、熱にも病気にも弱いと感じています。(※株自体は夏の熱さにも比較的強い。)
育てやすさについての私の実感
耐病性の強弱の観点だけから言えば病気に強い品種ではありません。総じて「普通よりも劣る」程度の耐病性であり病気によくかかります。
それでも結論から言えば初心者でも育てやすい品種と言えるでしょう。
この理由を見ていきます。
耐病性
バラはさまざまな病気にかかり、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。
うどんこ病への耐性
うどんこ病への抵抗力が「普通」程度です。
耐病性が「普通」表記の場合には、生育期のどこかでうどんこ病が生じる可能性があるとお考え下さい。
うどんこ病の症状|風が運ぶ脅威。季節はずれの粉雪がもたらす病害 ではこの病気について解説しています。
黒星病への耐性
黒星病への抵抗力が「普通よりも弱い」品種です。
誤解を恐れず言えば、この品種は黒星病が生じる品種と言い切って差し支えないと思います。それも、株全体の葉に次々と多発して夏の終わりまで株に葉っぱが残っているかどうかわからないといった様相をすら呈します。
葉を失った植物は光合成を行うことができず、通常のバラであればそのまま枯れ込むことも少なくなく、これは初心者にはとてもおススメできない要素です。
下記の写真は、展開直後の葉が黒星病に感染した状態を写したものです。葉っぱが展開してからこの状態にいたるまで10日~2週間かかっていないかもしれません。(※栽培環境により左右されるため上記は目安です。)
いずれにしても本品種が黒星病に弱いことは間違いないでしょう。
耐病性まとめ
ご覧のように2大病への抵抗力の面で通常よりも劣る品種と言えるでしょう。こまめな薬剤散布や防水対策を講じてもなお感染を見ることになりがちです。
病気への抵抗力の点だけでいえば強い品種ではありません。
樹勢
前項で見たように、耐病性において優れた品種ではないことから本品種が初心者に薦められている理由は病気への強さにあるわけではありません。
通常であれば初心者に不向きと思われがちな耐病性品種が初心者に薦められる理由は何か?
それは樹勢の強さ、より踏み込んで言えばクイーン・エリザベスという個体が有する強さ(=生命力)にあると思われます。それも圧倒的な。
初心者におススメのバラと言われるゆえんはここにあります。
クイーン・エリザベスの樹勢は「非常に強く」、本品種の最大の特徴がこの点です。
株は直立に伸びていき、あまり横へは広がりません。上へ上へといきます。(※剪定が足りない場合には2mを超す場合があります。)
とげの具合
非常に多くのとげがあります。取り扱いには必ず革手袋を装着しましょう。
新しいステム(枝)ではまだ成長していないため小さい。
下の写真のように枝が充実してくるとそれに応じて大小の鋭いとげが整ってきます。非常に鋭いので注意が必要。
栽培のコツ
コツ1:特になし
特段に気を付けた方がよい特性はなく、栽培上のコツは特にありません。
非常に強い生命力ゆえ特別に手をかけずとも枯れずらいのが本品種の特徴です。黒星病で葉っぱをすべてやられても、それでもなお生き残りやすいのがクイーン・エリザベスというバラなのです。
コツ2:ただ1点。剪定を行おう!
強い樹勢のため生育旺盛によく育ち、地植えであればやがて2mを越えるほど生長することがあります。良い花を咲かせるためにも季節ごとに剪定を行いましょう。
長年育てているとシュートがでづらくなるかもしれません。ただし古い枝からもサイドシュートがでて、その先端に花を咲かせるので心配いりません。
適する栽培方法
鉢植え、地植え、いずれにも適しますが私は地植えが良いと思います。
この場合には、以下の①②をするだけで足りります。地植えしておけばさほど手がかからないのでおススメです。
①冬期:株の周囲に肥料を入れ込む
②開花期:芽かき。花が終わったあとの花がら摘み。剪定。
結論:育てやすいか?のまとめ
クイーン・エリザベスをひと言で言えば「枯れにくいバラ」といった印象でしょうか。
病気に特別強いわけではなく「葉を失いやすい、にもかかわらず枯れにくい」という特異なバラです。
特別な栽培知識がなくても大きく育てていきやすいバラで育てやすい品種と言えるでしょう。[初心者向き]
本稿のまとめ
世界中で愛されてきた枯れにくいバラ「クイーン・エリザベス」の栽培実感を紹介しました。
およそバラは少なからず手がかかりがちな植物ですが本品種はとても気楽に栽培を楽しめます。見事な大輪の花を咲かせながら、それでいて花数も多くなりがちなのはとても嬉しいポイントですよね。
本稿がより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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クイーン・エリザベスの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇