バラの葉にかすり状紋様を生じさせることからはじまる「ハダニ」との戦いはどのような手順で進めていけばよいのでしょうか。
ハダニは速いスピードで世代交代を繰り返していき、そのなかで人の中途半端な攻撃などいとも簡単にはねのける高い耐性を備えていく厄介な敵です。
管理人は厄介な害虫ハダニの各被害段階ごとの実践的な駆除方法を以下の1~3のように行うのが妥当だと考えています。
- 初期段階|水攻めや安全性の高い農薬でとどめを刺す
- 中期・蔓延段階|主に化学農薬を使う。ただし1種類だけの殺ダニ剤しか手持ちにないなら最初から使ってはいけない
- 末期段階|もはや手遅れとして被害葉を切除・整理して株の再生につとめる。被害株はもとよりむしろ周囲への被害にこそ気を配る
このように各被害段階ごとに対応は異なると考えます。
本稿では、無農薬的手法や化学農薬を用いた手法・考え方を紹介した上で、上記1~3で示した各段階ごとの実践的な手順を説明します。
目次
はじめに
これから本稿で説明する内容は、「前編」にあたる ハダニ|バラの害虫|葉の表面のかすり状紋様に要注意!それが寄生の印 で説明した内容を前提とした「後編」にあたります。
本稿では具体的なハダニの駆除方法を扱っています。
駆除の方針
ハダニ駆除の方針はどのように考えていくのが妥当でしょうか。
ハダニの特性を確認します。[前編で紹介しています。]
ハダニの特性
- 薬剤に強い耐性がある[=およそ薬剤自体が効きづらい]
- 世代交代が速く、“その”薬剤に対する抵抗をもちやすい[=一度は効いたその薬もすぐに効かなくなりやすい]
- 増殖[世代交代]が速い
- 高温・乾燥環境に強い。反面、水に弱い
- 窒息攻撃に弱い
などが主たる特性です。
これらの特性を踏まえて被害の程度・段階に応じた対策を講じていきます。
まずは①無農薬的な手法と②化学農薬による手法の1つの駆除方法から紹介します。
ハダニの駆除方法①|無農薬的な手法
害虫駆除で威力を発揮するのはやはり化学農薬を用いた手法ですが、ハダニには特有の厄介さがあります。[耐性や世代交代の問題]
そのため化学農薬に頼らずに駆除できればそれがベストです。
そこで、無農薬による手法と、「農薬」ではあるものの天然素材を原料とした安全性の高い薬剤を使った駆除方法から紹介していきます。
基本戦略は水攻め
「高温・乾燥環境に強い反面、水に弱い」特性をもっているのでこの弱点をつきます。
無農薬的な手法の基本戦略は水攻めです。
水攻め「シリンジ」|繁殖力を弱らせる
シリンジとは霧吹きや噴霧器などを使って植物の葉っぱに水分を与えることを言います。
水が弱点であり非常に小さなハダニには霧状の水であってもダメージを与えることができます。水攻めを受けることで繁殖力が衰えるため、ハダニを抑制する効果が見込めます。
また、乾燥状態の夏場はただでさえ葉が潤いを失いがちな季節なので、もともと葉への水分補給を兼ねたシリンジを日常的に行うことは好ましい管理です。シリンジは同時にこれが夏場のハダニの抑制にもつながるわけです。
ハダニは主に葉裏で活動しているので、シリンジは葉裏へ念入りに行うようにします。早朝と夕方に、一日2度ほど行うようにしましょう。
なお、葉への散水は黒星病を招くから行わないという方がいらっしゃいますが、季節・場所・時間を考えて行えば黒星病にはなりません。
ハダニが問題になる季節[=高温・乾燥環境]は葉への散水も短時間で乾燥することから積極的にシリンジを行って構いません。
水攻め「強力散水」|強い圧縮水で遠くへ吹き飛ばす
その他の水攻めの方法は、強く圧縮した水を葉裏にあてて物理的にハダニを吹き飛ばすという手法があります。水道の蛇口のホース先端を親指などで押さえると水圧を強めることができますがこれを使った方法です。
原始的な方法ですが非常に有効です。少し葉裏にダメージが生じますがいとも簡単にハダニを吹き飛ばすことができます。1~2秒あてればだいたい吹き飛びます。
[ただし、吹き飛ばし戦法を使ってよいケースは株が少ない場合に限られます。バラの本数が多くある場合には、たとえA株から吹き飛ばしたところで向こうのB株に飛び移ってしまうのでは意味がありません。]
水攻めは「シリンジ+強力散水」がワンセット
シリンジで弱らせておいて、強力散水で吹き飛ばす。無農薬的手法はこのセットが基本です。
この水攻めとあわせて次に紹介する安全性の高い農薬を使うことでさらにハダニを抑えることができます。
日々の管理に取り入れたい。|安全性の高い「農薬」と農薬に頼らない手法
ひとくちに「農薬」と言っても、農薬も様々にあって、人や環境に優しいものもあります。
安全性の高い農薬は主原料が自然由来の成分のため人に対する安全性が高く、散布のための重装備をすることなく手軽に扱えるのがメリットです。
[※自然由来の農薬には「粘着くん」や「ハッパ乳剤」という薬剤があります。この詳細は ハダニへの殺ダニ剤の無計画使用は厳禁|科学的に征する殺ダニ剤と物理的に征する天然由来の農薬 で説明しています。]
他方で、完全無農薬防除の1方法としてコーヒーを使うという手もあります。
農薬と比べると効果が劣るものの日々の管理に少しずつ取り入れると予防の観点からとても有益です。
※防除効果| 食酢はうどんこ病・ハダニ・窒素過多の解消に効能があります
※防除効果| コーヒーのききめ|農薬に頼らず4害虫の防除・忌避効果が狙えます
この章のまとめ
無農薬的手法として水攻めと天然素材の農薬などを紹介しました。
この章で紹介した方法を日常的に行うだけでも中期段階にまで至らせずに防止することができると思います。予防に勝る治療法はありません。
とはいえ、発見が遅れたり対処をあやまって蔓延段階に至ってしまうことも少なからずあると思われます。むしろ、実際には中期・蔓延段階になってはじめてハダニの存在に気付いて困るといったケースのほうが実情かもしれません。
蔓延段階になるとここから本格的にハダニとの戦いが始まります。
そこで、次に害虫駆除の定番である化学農薬による手法について説明します。
ハダニの駆除方法②|化学農薬による手法
害虫退治に威力を発揮するのはやはり化学農薬です。
散布した範囲内のハダニを死滅させ、さらに残効[=散布後、一定期間薬剤の効果が続くこと。]のある薬剤なら散布後しばらくはハダニを寄せ付けません。
ハダニを退治する薬剤は専用の「殺ダニ剤」
害虫を駆除する薬剤といえば、「殺虫剤」をイメージされるかと思います。
驚かれるかもしれませんが、じつはハダニに「殺虫剤」の類はあまり効きません。
バラの害虫「アブラムシ」などに効いていたオルトランやスミチオン、キンチョールなどの殺虫剤系統はハダニに対してはあまり効果がないのです。
これを必ず知っておいてください。
対ハダニの薬剤は「殺ダニ剤」です。
なお、殺ダニ剤の種類や使用上の原則・注意点については ハダニへの殺ダニ剤の無計画使用は厳禁|科学的に征する殺ダニ剤と物理的に征する天然由来の農薬 でまとめています。
殺ダニ剤の使用にあたっては、必ずこちらの記事を一読した上ではじめて使用を検討するようにされてください。
殺ダニ剤を使ってもしぶといハダニは薬剤だけでは困難
化学農薬だけに頼り複数の殺ダニ剤等をローテーション散布し続けるのは薬漬けのバラを仕上げることになりますし、経済的にも賢明な手段とはいえません。
また、ご家庭で複数の殺ダニ剤を使い分けるのも現実的ではありません。
化学農薬だけでハダニを征するのは困難です。
そこで、ここまで紹介してきた手法[無農薬的手法・化学農薬による手法]を状況に応じて組み合わせることで実践的な駆除を行っていきます。
ハダニを駆除する実践的な手順
被害段階に応じた組み合わせで対処する
- 食酢やコーヒーなどを日常管理に取り入れる
- シリンジ・圧縮散水などの水攻め
- 粘着くんやハッパ乳剤などの[効果は充分ではないが]耐性がつきにくい薬剤の使用
- [征圧力に優れた強力な薬剤だが]耐性がつきやすい殺ダニ剤などの化学農薬の使用
- 剪定による適度の切り戻し
の4手法を被害段階や程度に応じて使い分けたり、組み合わせることで対処していきます。中期段階以降は枝の剪定も組み合わせます。
[発生初期]
上から株を見下ろした写真ですが、写真中央に葉のかすり状が見えます。
この状態で広範に株全体にいる、と見ます。[発生初期]
基本スタイル
まず、この段階で殺ダニ剤などの化学農薬を使うことは一切ありません。むしろ絶対に使うべきではありません。
初期段階におけるハダニは総数が少ないため無農薬手法で封じ込めを行います。使う手段は、
- シリンジ
- 圧縮散水
この2つを併用しつつ水攻めのみで抑えるのが基本です。状況によりこれだけで不充分と感じる場合には、
- 粘着くんorハッパ乳剤
のどちらかの薬剤を加えた合計3手法の組み合わせで抑えていきます。
注意点
水攻めは被害葉のみに行うのではなく、その株の他の葉にもすべて行うことが大切です。少しの見逃しがのちの蔓延へとつながっていくため入念に行うようにしましょう。
朝夕2度の涼しい時間帯にシリンジと圧縮散水を行い、水攻めのあと、必要に応じて粘着くんなどを吹きかけておきます。
小さな卵などが見当たらなくなるまで繰り返し行います。
この発生初期での基本スタイルはハダニの予防にもなるので、暑い時期にさしかかる頃から予防的に行っておくのも良いでしょう。
[中期・蔓延状態]
中期・蔓延状態になるとこのように。
葉の間に糸がはられるようになるほどハダニの勢いが増してきているのが中期です。
基本スタイル
シリンジや圧縮散水などの無農薬的な手法ではさほど大きな効果が見込めなくなるのが中期・蔓延状態です。
使う手段は、
- 殺ダニ剤などの化学農薬による対処
- シリンジや粘着くんなどは使用しても良い
- 圧縮散水は無計画に行わない
ここからは化学農薬による対処が中心となります。
初期段階で行ってきたシリンジや粘着くんは引き続き行っても構いません。
ただし薬剤を使う前には圧縮散水を行わない方が良いです。大量にいるハダニを水圧で四方に散らせるだけだからです。
化学農薬を中心とした駆除方法
ハダニへの殺ダニ剤の無計画使用は厳禁|科学的に征する殺ダニ剤と物理的に征する天然由来の農薬 で説明したとおり、殺ダニ剤の使用にはローテーション散布が不可欠です。
意識しなければならないのはハダニに薬剤耐性を生じさせないようにすることです。1種類の殺ダニ剤しか使わない意向であれば、最初から1種類も使わないようにしてください。
化学農薬だけで押し切ろうとするのではなく、あいまあいまにシリンジによる水攻めや粘着くんなどの薬剤耐性を生じさせない方法も併せることで総合的にハダニを弱らせて駆除していくという考え方を理解することが重要です。
手順はたとえば、
- 1日目.殺ダニ剤Aを散布
- 2日目.粘着くん&シリンジ(または片方)
- 3日目.粘着くん&シリンジ(または片方)
- 4日目.殺ダニ剤Bを散布
- 5日目.以降はこれを3~5回ほど繰り返す。
ハダニは10日ほどで一世代増えるので少し長い目で対策をしていくのが良いと思います。卵も順次孵化していくので殺ダニ剤の隙間を粘着くんやシリンジで補います。殺ダニ剤は2~3日おきに散布する感じで良いでしょう。
葉裏をチェックしてハダニがいなくなるまで繰り返して行っていきます。
まったくいないと判断した場合にはほぼおさまったと判断し、以後は化学農薬の使用はピタリとやめて、発生初期と同じスタイルに移行します。無農薬方法で管理しつつ再襲来に備えます。これからは圧縮散水を行っても構いません。
このように行えばハダニの被害葉を切除しなくとも済みます。[被害程度にもよりますが]葉はなるべく多く残していた方がその後の株の回復が早まります。
中期段階でも無農薬手法で頑張りたい方へのアドバイス
そうはいっても化学農薬は絶対に避けたいという方もいらっしゃるでしょう。
そこで無農薬を中心とした駆除方法についても説明しておきます。
この場合に使える手段は発生初期のスタイルと同じ方法に依らざるを得ません。これだけではなかなか実効性が望めないので、被害が著しい葉はすべて切除することが必要です。被害が著しい葉をすべて切除してハダニの総数を大きく減らすのが目的で、その後に残る葉で株の再生を考えます。
手順はたとえば、
- クモの巣がはっている箇所より下の葉はすべて葉の根元から切除する
- 葉裏を確認し、ハダニが多くいる葉も切除する
- このようにしてハダニの総数を減らす
- 粘着くんやハッパ乳剤をよく使い、残るすべての葉に継続的に散布する
- シリンジも併せて行い、葉の乾燥を防ぐようにつとめる
- いなくなるまで④と⑤を繰り返す
などで対処することになります。
時間がかかり、また絶対に抑え込めるとは言い切れませんが、それなりの効果が見込める方法です。根気強さが必要です。
注意点
この中期段階では、ハダニが蔓延した株を中心に、付近の雑草や他のバラにもハダニが広がりつつある状態です。
“その被害株だけ”を考えるのではなくて、周囲の状況に気を配ることが重要です。さもなければ繁殖力の強いハダニを相手に、しょせんはイタチゴッコに終わることにもなりかねません。
ハダニを防止する最終ラインは中期段階であるここです。なんとしてでもこの中期段階で食い止めましょう。
【最終段階。対処法】
ハダニに侵された株の末期・最終段階がこちら。
基本スタイル
ハダニの侵攻は最終局面に達しており、もはや止めようがありません。ここに至ればこの被害株をどのように救うかが最大の関心事です。
中期段階よりも手順はかえってシンプルです。
- 株の葉をすべて切除する。残してはいけない[=株が丸裸になるがやむを得ない]
- 丸裸となった株全体に殺ダニ剤を散布
- ※周囲のバラにも殺ダニ剤を散布。周囲の雑草は残さず切除
- ※周囲の株に被害が生じていないかを念入りに確認する
- 丸裸となっている株を剪定する。夏場だが2分の1から3分の1に切り戻す
- 肥料は与えず、直射日光が当たらないよう日陰状態にして養生させる
これらの手順で株が枯死しないように注視します。
注意点
この最終段階では間違っても圧縮散水をしてはいけません。ハダニを広範に散らせる原因となる悪手にしかなりません。
なお、ハダニがついた葉は言うまでもなくビニール袋に入れて二重三重に口を封じておきます。はいだしてくるといけないので注意してください。ビニール袋は燃えるごみなどにだして焼却処分にします。
本稿のまとめ
以上、本稿はハダニの駆除方法について幅広く紹介してきました。
ご覧いただいたように、ハダニの駆除方法はその被害段階ごとに異なるため、初期、中期、末期の各状態を確認してもらうとともに、それぞれ段階でのの対処法をお伝えしました。細かな場合分けを紹介したことで、一読了解とはなかなかいかないかもしれません。必要に応じて本稿を適宜参照されるなどしてお役立ていただければ幸いです。
ここからより一歩進んで、中期以降の薬剤使用についてどのように考え、具体的にどう処置していくのかについては ハダニへの殺ダニ剤の無計画使用は現金|化学的に征する殺ダニ剤と物理的に征する天然由来の農薬 で紹介しています。併せてご覧ください。
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バラの管理/Sentence/All photos:花田昇崇