厳しさを増す日本の夏の気温は、今では35℃を超える高温地域も珍しくなくなってきたのはご承知のとおりです。一昔前にはなかったうだるような夏は、人間はもとよりバラにとっても厳しい環境です。
特に鉢バラは灼熱の陽ざしを受け続けることから特に過酷な環境です。鉢バラが枯れてしまわないように気をつけながら水やりしなければなりませんが、「夏」の水やりには夏だけの注意点があります。「春・秋」や「冬」とは違った取り扱いが必要です。
本稿は、とにかく暑い夏の鉢バラの水やりの注意点やコツ、夏の水やりのメルクマールについての管理人の考察を紹介します。夏の鉢バラの水やりで困ったときは本稿をご覧ください。
[※上級者向きの内容です。]
目次
バラの水やりのルール
バラの水やりを取り組むにあたりあらかじめ知っておくべきルールがあります。
※ 2つの視点で見るバラの水やり|基本となる取り組み方 で水やりの基本事項やルールを説明しています。こちらをご覧いただくと水やりを一層理解できると思います。
灼熱の夏を乗り越える!夏の鉢バラの水やり
夏の鉢バラへの適切な水やり回数を考えるうえで知っておかなければならないのは、バラが水を必要とする周期に影響する要素、すなわち「鉢内環境や鉢外環境がどのようなものか?」という点です。
鉢内環境とは、鉢内部の温度や土質(保水性)、また鉢の種類にも左右される鉢の中の環境です。鉢外環境とは、その鉢が置かれている場所の問題や直射日光・外気温などの周辺環境を意味します。
これら鉢内・鉢外の影響を受けて鉢内の水分量・水温は刻々と変化します。これによってそのバラに必要な一定の水分量が下回ったときには水枯れの症状が起こります。そうならないようにバラが求める水量をしっかりと与えておかなければなりません。
なお、もしも水枯れになった場合でも発見が早ければ大丈夫です。 慌てる前に知っておきたい。水枯れで萎れた鉢バラを回復させる方法 を参考になるべく早く回復させましょう。
4つの高温要素|夏の鉢バラがさらされる危機的な環境
夏場に鉢内がどのような環境か?
結論から言えば、夏場の鉢内は想像を超える厳しい高温環境です。
具体的には、鉢バラは上下左右の4面から激しい熱に襲われています。
- 鉢の上[表面] : 直接に太陽の強い陽ざしと熱風にさらされる
- 鉢の側面 : 強い陽ざしを表面積が多い側面で受けて鉢内に熱をためこむ[プラスチック製の鉢なら更に高温化する]
- 鉢の下[裏側] : コンクリートなどに直置きの場合には熱されたコンクリートの熱が鉢の下面を焼く
- 鉢内の水 : 上下左右からの熱で鉢内にある水が熱湯化し、根を痛める
の4方面です。このどれもが鉢内の水分を激しく奪い、バラの根を痛めます。
夏の鉢バラはこのような過酷な環境にさらされています。
なお、もしも鉢バラがエアコンの室外機のそばなどに置かれているなら過酷さはさらに増すことになるでしょう。
補足|鉢表面の土が乾いたことをメルクマールにするのは不適当
鉢の上の補足です。
春・秋などは土の表面が乾いていることを水やりの目じるしとします。これはご承知の方が多かろうと思います。
しかし、高気温の場合には土表面というのは水やり後のわずか数時間で乾ききります。
そのため暑い時期に土表面の渇き具合を水やりの目じるしとすることはあまり適切とは言えません。
高温環境下だと表面の土の乾きは必ずしも水やりのメルクマールにはならないことを知っておきましょう。
補足|鉢内の水はあっという間にお湯になる
鉢内の水の補足です。
水やりで鉢内をめぐった水はすべて鉢外へ排出されるのではなく、一部は鉢内にとどまります。[保水性のある土は水を鉢内にとどめます。]
夏場は、この鉢内にある水それ自体も根を痛める原因になります。鉢自体が熱せられることによって短時間のうちに水がお湯へと変わっていくのです。
この熱湯により根が傷められることがあります。
夏の鉢バラの水やり「2つの目的」
このような過酷な状況に置かれた鉢バラの内部環境ですから、
- 失われた水分補給を目的とする水やり
- 鉢内をクールダウンさせることを目的とする水やり
この2つの目的による水やりを行うことが大切なのは言うまでもありません。
①の水分補給を目的とする水やりは本来の水やりの意味そのままです。
ただし、②のクールダウンさせる目的の水やりについては少しコツがあります。
それぞれ説明していきます。
①水分補給のための水やり|回数・周期・間隔
夏場は鉢内の水が熱湯化したり乾燥しやすく鉢バラがダメージを受けやすいことを説明してきました。
夏は水分補給のための水やりの回数が他の季節に比べて多くなります。
具体的には、
- パターン1―「1日に2度」
- パターン2―「1日に1度」
- パターン3―「2日に1度」
- パターン4―「3日に1度[それ以上]」
この1~4のパターンのいずれかの回数で行っていくことになろうかと考えています。
水やりの回数に差がありますが、これは地域や各人の状況によって鉢内外の環境も様々ですので、説明の便宜上ある程度の幅をもって考えるのが良いのではないかと思っています。
これらのパターンにつき、管理人の感覚におけるメルクマールを説明しておきます。やや抽象的ですがあなたの地域・環境において参考になれば幸いです。
◆1日に2度の水やりが必要な地域
1日のうち2度くらいは水やりをしたほうが良いと思われる地域は、
- 直射日光が朝から晩まで降り注ぐ炎天下の日向に置いてある鉢
- 朝から晩まで快晴
- 一日の最低気温が25℃[※目安]以上
- 鉢への遮光措置などがなされていない
- 平地
このような環境です。
25℃はバラにとっては既に高い温度です。しかも一日の最低気温が25℃以上であれば、日中の最高気温は35℃を超えてくる場合が多いはずです。
鉢バラは休まる時間がほとんどない最も過酷な環境です。
◆1日に1度の水やりが必要な地域
- 直射日光が3時間程度の半日陰環境[=一日中ずっと炎天下にさらされない]
- 風通しがよい
- 最低気温が25℃(目安)以上
- 平地
または
- 直射日光が降り注ぐが、快晴と曇りが混じる日[=曇りがまじる日]
- 一日の最高気温が30℃程度[※目安]までにとどまる
- 鉢への遮光措置などがなされていない
- 平地
このような環境です。
このような場合には1日に1度の水やりで足りるケースが多いと考えています。
◆2日に1度の水やりで足りる地域
- 直射日光が1日あたり3時間程度の半日陰環境
- 風通しがほどよくある
- 最高気温が30℃程度[※目安]にとどまる
- 平地
または
- 最低気温が25℃以下
- 最高気温も30℃以下の場所
- 直射日光があたる時間・天候は不問
- [たとえば高地]
または
- 最低気温25℃以上[※最高気温が35℃前後に達するケース]
- 木漏れ日や遮光措置をして一日中ずっと直射日光が当たるわけではない環境[※
- 湿度が低く、比較的乾いた場所[平地でも高地でも]
この3つのパターンであれば毎日の水やりだと水分過剰になる可能性があります。「2日に1度」で様子見するのをおススメします。
◆3日に1度(それ以上)の水やりで足りる地域
- 最高気温30℃以下
- 木漏れ日や遮光措置をした環境下などで一日中ずっと直射日光が当たらない
- じめじめとして湿度が高い場所
- 平地でも高地でも
このような環境であれば夏場であっても3日に1度程度の水やりで足りるでしょう。
①のまとめ
ご覧いただいたように、夏の水やりといっても各人の置かれた環境などにより一概には言えません。
この分類はひとえに管理人の経験則ですが、あなたの地域や環境を上記にあてはめて目安にしてみてください。
なお、この分類の具体例を2,3あげてみると、
気温35度で一日ずっと陽ざしが強い平地なら、「1日に2度」の水やりを行ったほうが良いでしょう。
気温35度でも3時間程度しか直射日光のあたらない場所なら、「1日に1度」で足りると思います。
他方で、最高気温が30℃程度にとどまる場合には、少し抑制的に「2日に1度」にとどめた方がよいと思われます。
などとなります。
②クールダウンさせる水やり方法|時間帯と水量
上記で見てきた回数[周期・間隔]の問題と並んで、同時に意識しなければならないのが水やりを行う時間帯と水量です。
水やりはいつでも気が向いたときに行えばよいというわけではありません。
与える時間帯をしっかりと考えて行わなければなりません。そして水量も過不足なく充分に与える必要があります。
まず、水やりを行う時間帯は、
- 1日2度の場合|早朝と夕方
- 1日につき1度の場合|早朝
この時間帯に行うようにしましょう。
◆早朝に水やりをする時間と理由・コツ
早朝に水やりを行う理由は光合成が主として午前中に行われるためです。
ここで言う「早朝」とは夜明け前を指します。7月~9月であれば一例として午前5時~午前6時など太陽が登る前の時間帯が好ましい。
なぜなら、鉢内には翌日に与えた水が生暖かい状態で残っていることが多く、これら鉢内の水[※熱湯に近い場合もある]を新しく涼しい水に入れ替えることで、日の出に先立って根を冷やすとともに鉢内環境をクールダウンさせることにつながるからです。
この効果を上げるためにはなるべく夜明け前がおススメです。
夜明け前に水やりすることで、
- 強い陽ざしで鉢が熱せられる前にするので鉢内をしばらく涼しい状態に保てる。[=すぐに熱湯状態にならない。]
- 夜間にいくばくか鉢が冷えている分、前日の熱い水の押し出しに多くの水を必要とせず経済的
- ハダニ対策を兼ねて葉水した場合にも、きつい直射日光によらずに自然に乾燥させることができるので葉を傷めない。
などの効果が見込めます。
夏の水やりは特に早めの時間帯を意識することがコツです。
◆夕方に水やりをする時間と理由・コツ
夕方に行う主たる目的は鉢内のクールダウンにあります。[+水の補給。]
気温35度前後の直射日光を一日ずっと浴び続けた鉢ですから鉢内の温度はまず間違いなく高温になっています。鉢内に残っている水は熱湯に近いでしょうし根もダメージを受けがちです。あるいはかなり乾ききっているかもしれず、失われた水分を補ってあげる必要があります。
夕方に水やりを行う時間帯は17時前後以降からはじめるのがおススメです。
夏場は19時すぎまで明るいので日没までに作業を終えるようにします。
◆どれくらい水をあげるの?水量のコツ
早朝も夕方の水やりも、共通する大切なコツはたくさん水を与えることです。
春・秋の場合にも「鉢底から水が流れ出るほどたっぷり与える」といった具合ですが、夏の水やりはこれでは全く足りません。
鉢内にたまった生ぬるい湯[熱湯]が完全に入れ替わるほどたっぷりとたっぷりと与える。
というように考えるとよいでしょう。
夏の水やりは水量についても春・秋とは違うという点を忘れないようにしましょう。
補足|鉢内を高温化させないための措置
水やりで鉢を涼しく保つ手段を紹介してきましたが、以下のような方法でも鉢内環境を涼しく保つことができます。
簡単にできる手法としては、
- 涼しい場所へ鉢を移動させる
- ホームセンターなどで販売されている遮光シートで日陰を作る。もしくはシートを鉢の周囲を巻き、鉢に直接陽ざしが当たらないようにする
- 鉢周辺の地面に打ち水をする
- 複数の鉢がある場合には鉢自体を寄せ合い、相互を陽ざしよけとする
- 寄せ植えにして直射日光を和らげる
などいくつか考えることができます。
鉢の高温化を防ぐ手段は水やりだけではありませんから、いくつもの手法を組み合わせることで鉢内外の環境を整え、バラが健やかに育つように気を配ることが夏の鉢バラを育てるうえでの大切な視点です。
補足|夕立が来たときはどうする?
近年の日本は過去とは違い、現在の気象予報網では予測困難のいわゆる「ゲリラ豪雨」が各地で多発するようになってきていますが、これら集中豪雨や夕立があった場合についての考えを補足しておきます。
結論から言うと集中豪雨や夕立があろうと通常通りの水やりを行った方が良いと私は思います。
むろん圧倒的な水量のゲリラ豪雨の場合は別ですが、鉢内をクールダウンさせるに足りる量の水量には至っていないケースが多いのではないかと思われるのが私が観察した限りでの印象です。
鉢土の表面を水滴が激しく打ち付けても鉢内がじっくりと潤うほどには鉢内には浸透していかないものです。
本稿のまとめ
さて、いかがだったでしょうか。
本稿では鉢バラをとりまく灼熱の環境下において、夏の鉢バラの2つの目的や早朝・夕方に水やりを行う理由など、その他これに関係する補足を説明してきました。本稿で紹介したメルクマールを参考に対策を講じてみてください。
本稿が皆様のより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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バラの管理/Sentence/All photos:花田昇崇