「エリナ」と聞けば、皆さんは何を思い浮かべますか?女性の名前を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。日本テレビの「岩田絵里奈さん」や人気フリーアナの「新井恵理那さん」、元TBSの「枡田[旧姓]絵理奈さん」などにみられるように、あてられる漢字の違いはあれ、今では日本国内でしばしば目にする「エリナ」という名前ですが、元々は海外で広く使われていた名前です。
「エリナ」は古くから世界各地で見られてきた名前で、北欧、ギリシア、インドなどに記録が残されています。「エリナ」の名には、「明るい光」「たいまつ[トーチ]」という意味が込められており、今日でも北欧のフィンランドでは伝統的かつ一般的な名前として命名されているようです。また古代サンスクリット語では「エリナ」に「知性ある女性」の意味が込められていたそうです。
このように素晴らしい意味をもつバラが大輪の黄色花を咲かせるハイブリッド・ティーの「エリナ」です。強い耐病性と激しい温度変化にも適応しやすい生命力を秘めたバラであり、特筆すべきは輝くようなクリームイエローのたたずまいで1輪でもガーデンの主役になれる花姿でありながら、一方で、他のバラと併せても自分だけが主張しすぎることなく他のバラを引き立てるように立ちまわれる点です。まるでテレビでご活躍される知的なアナウンサーさんのようですね。
本稿は、明るい色味の大輪品種でガーデンの主役になれる花でありながら、同時に脇役も見事にこなせる知性の黄バラ「エリナ」の栽培実感です。耐病性に優れ、初心者にもおススメの品種です。
目次
品種の情報
4基準データ
- 花色 : クリームイエロー
- 芳香 : ★★☆☆☆☆ [微香~中香|軽い柑橘系]
- 耐病性 : ★★★★☆☆ [うどんこ病「普通よりも強い」|黒星病「かなり強い」]
- 樹形 : 木立ち性|ハイブリッド・ティー|半直立
※4基準とはバラ入門者の方がはじめてのバラを選ぶうえでの指標となる4つの判断基準です。さまざまにある選択要素のなかから最も重要な4つの基準を紹介しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
⇒ バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準
補足基準データ
- 花つき : 抜群に良い
- 花もち : 良い
- 花形 : 丸弁高芯咲き
- 花びらの枚数 : 25枚~[最大]30枚前後[八重咲き]
- とげ : 大小の鋭くふといとげ
- 耐寒性/耐暑性 : 強い[冬:強い/夏:強い]
- 花径 : 10~12 cm[大輪]
- 樹勢 : 強い[高さ最大175 cm程度]
- 開花サイクル : 四季咲き
- 作出 : 1985年.イギリス[Paul Dickson]
- 原名 : Elina
- 交配 : Nana Mouskouri × Lolita
- 備考 : 栄誉の殿堂入り[2006年.世界バラ連合会.大阪大会]/ドイツ・アイルランド・ニュージーランドで受賞歴
※「丸弁」「高芯」など、バラの花形にはさまざまなものがあります。
⇒ 花びらと花のかたちで見る「花の表記」の読み歩き
※補足データは4基準に準じる2次的な基準です。4基準ほど育てやすさに直結するものではありませんが個々の花の個性を形づくる情報です。
育てやすさ|栽培難易度
エリナは「初心者向け」のバラです。
バラの育て方に慣れていない方やこれからはじめてバラに挑戦される方でも育てやすい品種です。
ローズフェスタ・スクウェアより
以下のようなtweetをしました。ローズフェスタ1番ファームで育てています。
3,4日前に撮影したハイブリッド・ティー品種の「エリナ」[右]とシュラブの「シャルトルーズ・ドゥ・パルム」[左]です。
エリナは高さが170cmに達するほど背が高くなります。背は高くても、ご覧のように横に広がらずにまとまるので等間隔で植えると生垣のように使うこともできると思います。 pic.twitter.com/e8EOffPndG— ローズフェスタ・ツイッター (@RoseFestaSquare) May 21, 2020
昨日撮影した直近記事でも紹介した #バラ #エリナ です。
5月下旬から6月初旬頃から咲きはじめる遅咲きなので今が満開。
付近の方が遠くからみて『あれはやっぱりバラの中でも王様?』と聞いてくるほど遠目にも目立つ大輪の花を多くつけます。
無施肥栽培でこのように😉
記事⇒https://t.co/qaK0ieMmIn pic.twitter.com/t7y0wEZ3XS— ローズフェスタ・スクウェア@バラ園整備中 (@RoseFestaSquare) June 4, 2020
外観上の特徴
エリナは四季咲き性の品種で、冬期を除く春~秋に繰り返して何度も開花します。
うまく育てると年に最大5回ほど開花します。
つぼみ~ほころび
枝先に1輪だけつぼみをつける典型的なハイブリッド・ティーです。
⇒ ハイブリッド・ティーってなに?|新時代を開いた現代バラ誕生の物語
つぼみがほころびていく様子がこちら。
つぼみがほころびると薄いグリーンが混じる黄色の花びらが顔を見せはじめます。
それはいったん白みを増し、その後にクリームイエローの色味になっていきます。
開花|花色の魅力
エリナの花色はクリームイエローです。
[より正確には全体的に淡いクリーム色を帯びた黄色で、中心部はレモンに近い色味。]
エリナは世界で最も人気のあるクリームイエロー系のバラのひとつと評価されています。
柔和な印象の花びらとクリームイエローの柔らかな色味は、陽の光とよく調和し、きらきらした魅力を醸しだしています。たとえ一輪がそこにあるだけで、まるで明るい「トーチ」に目がいきふと足を止めてしまうような、そんな魅力を感じさせます。
一方で、異なる色味・個性を持った別の花が身近にある場合には、まるで自らが集めた光を分け与えるように、トーチさながらに他の花を明るく照らしてくれます。柔らかなクリームイエローの優しい色味だからこそできるのかもしれません。
エリナはガーデンの主役にも脇役にもなれる、そんな存在なのだと感じています。
さて、咲き終わりは、花芯付近が内側へ、外周の花びらは外側へ向かって傾きます。
花つき
花つきが抜群に良い品種です。
春の開花時期が他のバラと比べてやや遅い遅咲きであるものの、ひとたび開花すると1度の開花期につき優に10輪以上もの花を咲かせます。[多花性のバラ]
ハイブリッド・ティー系の品種としては圧倒的な花つきの良さを誇るバラと言ってよく、冬に霜が降りるまでよく咲きます。[最大で年5回程度咲かせることができる。]
無施肥で育てた株でも多くの花をつけます。それゆえ、気構えることなく、まずは気軽に挑戦してもらいたい品種だと感じています。
[栽培技術がある程度は必要にはなりますが、]定期的な薬剤散布や理想的な施肥管理を行って理想的にうまく育てた株なら、たった1株でゆくゆく年間で100~200輪程度か、それ以上も収穫できるようになる可能性があります。
花もち
花もちが良い品種です。花びらを保持する力が強いので長く花を楽しむことができます。
しっかりしたステム[茎]が一本すっと伸びる品種のため切り花にすると映えます。
際立つ花色と抜群の花つきも相まって切り花に最適な品種です。
香り
香りのタイプは、軽い柑橘系の香りです。
ただ、微香か、せいぜい中香程度で強くは香りません。
新しい葉と古い葉との対比
展開したばかりのやや赤みを帯びた葉はこちら。
赤みがとれて落ち着いてきたあともエリナの葉はワックス層を長く保ちます。
さらに落ち着いた状態が以下。
濃い緑の葉になってなお光沢が残り、この後も長くワックス層を維持します。
育てやすさについての私の実感
耐病性
バラはさまざまな病気にかかりますが、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。
この2大病の耐病性が「強い」と考えています。
うどんこ病への耐病性
うどんこ病に「普通よりも強い」品種です。
[※表記の参考:普通 < 普通よりも強い < 強い < かなり強い < 最強 ]
よく陽の当たる露地栽培であればうどんこ病を気にする必要は特にないと思います。
ただし、日陰や半日蔭の環境には注意が必要で、このような環境ではうどんこ病の発症を見ます。
[「強い」以上の評価にしなかった理由は、露地栽培では通年で症状がほぼほぼ見られないものの、じつは遮光措置を講じたビニールハウス内ではしばしば発症しているのを確認しています。上記の評価はこの点を考慮して評価しました。ただ、露地栽培ではうどんこ病に神経質になる必要はないと思います。うどんこ病に「強い」傾向の品種と考えてもらって差し支えありません。]
黒星病への耐病性
黒星病に「かなり強い」品種です。
[※表記の参考:普通 < 普通よりも強い < 強い < かなり強い < 最強 ]
管理人がエリナを[本稿執筆時点で]6年ほど育ててきた経験上、最強とまでは言えないものの、最強の一段階下くらいの黒星病の耐性があると感じています。無施肥・無消毒の株であっても梅雨時期に多くの葉を落として株が丸裸状態に至るケースはほとんど見受けられません。晩秋までそれなりの数の葉を維持しているケースが多く、年数を経るごとに株が充実して耐性はさらに増します。
新苗段階であれば念のため薬剤散布しておくのがおススメではありますが必須ではありません。植え付け後から数年たって株が充実して以降は薬剤散布の必要性も下がります。
抵抗力まとめ
ご覧いただいたようにうどんこ病に「普通よりも強」く、黒星病も「かなり強い」など、2大病への抵抗力の強さが認められる品種です。
2大病への抵抗力は、間をとって「強い」と評価します。
樹勢
樹勢が「強い」品種です。
旺盛に生長してガッシリとした株に育ちます。
基本的にあまり横へは広がらず、上へと伸びていきます。[横サイズは120cmくらいでおさまります。]
高さは最大で175cmくらいでとどまり、それ以上はさほど伸びない[ことが多い]と思われます。
とげの具合
エリナのシュートの先端付近の若いとげは以下の写真のように鋭いとげが少しある程度。
ただ、株元付近や古い枝にはとげが多くつき、ご覧のようにわりとびっしりと無数の鋭いとげがあります。
取り扱いには皮手袋を装着するのが無難です。
栽培のコツ
日向を好む品種[半日陰はやや心配]
エリナは日なたを好む品種です。充分な日光量を確保できる場所で育てたいです。
管理人が試したところでは半日蔭の環境はうどんこ病に罹る場面によくでくわしました。採花できる本数も減ります。
半日蔭はおすすめしません。
灰色かび病にやや注意
ホワイト・クリスマスほど生じるわけではなく、また開花期ごとに常に発症するわけでもありませんが、一度の開花期につき1~3ほど症状が見られる場合があります。
なりやすい傾向があるかもしれません。少し用心してチェックしてみてください。
灰色かび病について知りたい方は 白銀の降誕祭に降る白バラ[ホワイト・クリスマス]の栽培実感 内にある「灰色かび病に弱い」という項目を参照ください。
適する栽培方法・地域
日なたで地植えがおすすめ
樹勢の項目で述べたように基本的には上に伸びる品種ですが、大きく育つタイプなので鉢では窮屈です。また、小さなスペースにも不向きな品種です。
株まわり1.2m程度のスペースを確保した上で地におろして[地植え]大きく花を咲かせることをおすすめします。
なお、地植えしてもそこが半日陰になる環境なら、開花数が減るなど本来のポテンシャルを発揮できない場合があります。
「耐暑性が強い」はおそらくその通り
エリナは、冬の気温が平均マイナス3℃前後[ミュンヘン]と比較的寒さが厳しい国で評価の高いバラで「耐寒性がある」と評価されています。他方で、夏の高温への強さもある[耐暑性がある]と評価されています。
管理人の栽培地は「年間で30℃以上の真夏日が60日以上[2019年]」あり、夏季シーズンには暑い日がそれなりに続くものの、もともと冬の寒さに厳しい地域ではありません。
そのため、耐寒性があるかかどうかは検証できないためはっきりと申し上げられません。
管理人の観察では、
- 夏でも大きく葉を落とすことがない
- 他の季節と比べても夏に生育が大きく衰える様子が見られない
- 夏を挟んでも定期的につぼみをあげてくる
などから夏の暑さへの抵抗力は認めてよい[耐暑性がある]と考えます。
[暑さに強い黄色系のバラとして評価できる。]
結論|育てやすいか?のまとめ
- 高い耐病性の強さ
- 地植えしてしまえばあとはあまり手がかからない
これらの点から初心者におすすめできる育てやすい品種です。[初心者向き]
これまで見てきたことを踏まえ、「暖地」の「日向」で「地植え」して育てるのがおすすめです。
このようにすることで花が終わった後に「花がら摘み」や「夏季剪定」、「冬剪定」を行う程度の管理で済みます。
エリナはとても優秀な子なのです。
本稿のまとめ
本稿では2006年に世界バラ会連合「大阪大会」で「栄誉の殿堂入り」も果たした世界中で評価されてきた人気のバラ「エリナ」の栽培実感を紹介してきました。
エリナのように強い木立ち性のバラを紹介しています。興味があればこちらも併せてご覧ください。
⇒ [初心者必見]4基準から導くおススメの「木立ち性」バラ10選
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エリナの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇