当サイトやバラの本で頻繁に登場する「ハイブリッド・ティー」という用語。
バラの樹形の分類でしばしば目にする「ブッシュ」「フロリバンダ」「シュラブ」「クライミング」・・・いまいちよくわからない。
そんなお困りのあなたにお届けするのが本稿です。「ハイブリッド・ティーってどんなのだろう?」と疑問をお持ちのあなたのためのハイブリッド・ティーの説明です。「現代バラ」というバラの新時代を切り開いた新品種の誕生の物語を併せて紹介します。
目次
木立ち性|ハイブリッド・ティーの特徴
バラの本などの一般的な記述・説明
ハイブリッド・ティー系統ってどんなバラ?
市販のバラ栽培本などではおおむね以下のように説明されています。
「ハイブリッドティー系統は四季咲き性の大輪品種のことです。」と。
たしかにこの通りなのですが、少しわかりにくいかもしれません。少し補足したほうがわかりやすいかとも思われます。
そこで、言葉を変えてわかりやすくお伝えします。
ハイブリッド・ティー4つの特徴
※パパ・メイアンの特徴・育てやすさなどを 最高級の花びらと強香の黒バラ[パパ・メイアン]の栽培実感 で詳しく紹介しています。
さきほどの「ハイブリッド・ティー系統は四季咲き性の大輪品種」という文章には2つのキーワードが含まれています。
- 「四季咲き性」
- 「大輪品種」
の2つです。この2つのキーワードはハイブリッド・ティー系の不可欠の要素ですが、これだけではありません。
2つ付け足して、おおむね以下の4つの特徴があると考えるとわかりやすいと思います。
- 四季咲き性 [=春~初冬まで年間を通じて複数回咲く]
- 木立ち性 [=支柱に結ばなくても木のように株が自ら立てる(自立する)性質がある]
- 大輪 [=花が大きい。8cm~12㎝以上の花径の大きさ。1つの枝の先に大輪の花を1つ咲かせる。]
- 同じ枝から次に開花するまでの間隔が長い [=1茎につき1つの花が咲くので一度切り落とすと次に開花するまでに時間がかかる。]
この4つです。
見てわかるままの外見上のポイントは、真っすぐと伸びた枝の先端に大きな花を一輪だけ咲かせるバラの系統と考えてください。
[※原則はこれですが、例外として 側蕾 という作業が必要な品種もあります。]
このように枝先に一輪の大輪花を咲かせるという特徴からハイブリッド・ティー系統のバラはしばしば切り花に用いられます。[なお、実際に切り花として販売されるかどうかは、さらに品種ごとの花もちの良さや花色などを踏まえて決められます。]
以上がハイブリッド・ティーの特徴です。
[ハイブリッド・ティー[Hybrid Tea]の頭文字から「HT」と表記されたりもします。]
さて、これより以降は、このようなハイブリッド・ティー系統がどこから来たのか?についても説明しておきたいと思います。ハイブリッド・ティーというバラをよりよく理解することができるでしょう。
よろしければお付き合いください。
バラの新時代「現代バラ」を到来させたハイブリッド・ティーはどこからきたか
ハイブリッド・ティーがどこから来たのかを語るためにはその歴史をたどることが必要です。すこし歴史物語をしたいと思います。
2つのオールド・ローズ系統。融合の産物
世界中に散在していたバラの原種は人によって集められ、より良い花を生み出そうと数百年にわたって人工的な交雑が進められてきました。このような試みは今日でも衰えるどころかさらに勢いを増している様相すらあります。
バラの育種は西洋で盛んに行われ、日本で江戸時代が終わる19世紀の半ばころには本場ヨーロッパではすでに様々なバラの系統が生まれていました。
もっとも、主流は[今日で言うところの]オールド・ローズ群に属する春に1度だけ開花する一季咲きのグループです。
この当時も年間を通じて繰り返し咲く四季咲き品種も存在はしていました。けれどもそのあまりの弱い性質のため普及するには至っていませんでした。
そのような当時の状況下において、オールド・ローズ群に属する系統のなかで将来性を感じる際立った特徴を有していたのが
- オールドローズ群:ハイブリッド・パーペチュアル系統
- オールドローズ群:ティー系統
の2つの系統で、この交雑が進められていくことになります。
ハイブリッド・パーペチュアル系統
19世紀半ば~後半までの西洋ガーデン・ローズの中心としてあり続けたこの系統は、「永久[=perpetual・パーペチュアル]」を意味する単語が付せられてオールド・ローズ群のなかでも高い完成度を誇っていました。
大輪花を咲かせ、同時にまた鮮やかで多彩な色彩が特徴の系統です。
寒さ[耐寒性]に強く、また強健さが特徴で寒さに厳しい西洋のガーデン・ローズとして広く受け入れられた理由でもあります。最初のハイブリッド・パーペチュアルが誕生した19世紀最初[1816年]から19世紀の後半までの100年未満の間に1000品種以上が生み出されたとも言われます。
大輪花に多彩な花色を咲かせ、さらに耐寒性に優れるなどのハイブリッド・パーペチュアルですが、最大の弱点は完全な四季咲き性を持ちえなかったことにありました。
ティー系統
ハイブリッド・パーペチュアルに不足していた四季咲き性という特徴は中国に起源するバラが備えていました。「ロサ・キネンシス」です。
18世紀末ころから本格的に西洋に入ってきたロサ・キネンシスは、様々な紆余曲折を経てやがてオールド・ローズ群のひとつ「ティー・ローズ」系統の誕生へとつながります。
四季咲き性のティー・ローズ系統は同時に香りも優れていました。香りが紅茶の香りに似ていることからティー・ローズと命名されることになります。
19世紀前半にはこのティー・ローズの系統が成立していたと言われています。
他方で花色の多彩さなどがティー系統には不充分であり、それが弱点となっていました。
ハイブリッド・ティーの完成 = モダン・ローズの誕生
ハイブリッド・パーペチュアル系統には長所と短所があり、その短所を補うのがティー系統と目されました。
かくしてハイブリッド・パーペチュアルの長所とティーの長所が組み合わさり、新しい系統「ハイブリッド・ティー」[HT]が誕生します。
―豊かな芳香を放つ色とりどりの大輪花が繰り返して開花する―
バラの育種に携わる先人たちが夢見てきた特徴を兼ね備えるモダンローズ[現代バラ]の幕開けです。
西洋で発展してきたハイブリッド・パーペチュアルに中国からもたらされたバラが出会い、そして交わり、東西の融合によりバラの世界に新しい時代が生み出されたのです。
モダンローズ最初の品種は1867年の「ラ・フランス」
記念すべきハイブリッド・ティーの1号品種は今でも人気の高い「ラ・フランス」という品種で、同時にモダン・ローズの1号品種にもあたります。
このラ・フランスは1867年に発表されました。
ラ・フランスが発表された1867年は特に重要な意味があり、これを起点としてバラの総称の呼ばれ方が大きく分けられることになりました。
- 1867年以前から存在し、育成されていた系統 = オールド・ローズ
- 1867年以降に生み出された系統 = モダン・ローズ
このように1867年を境にそれぞれ呼ばれるようになります。
なお、余談ですが日本では同年に武家政権最後の将軍となった徳川慶喜による「大政奉還」が行われており、1867年は我が国でも歴史の大きな節目にあたる年です。
武家政権が終焉した大政奉還より以前が「オールド」で、それより以後が「モダン」とは偶然とは言え良くできた話しです。
補足|参考記事
他の樹形についても知りたい方へ
フロリバンダってなに?|枝先がブーケのように咲くバラの楽しみ方 では木立ち性|フロリバンダの特徴を、
シュラブってなに?|多様・多彩なバラの個性が集まるシュラブの魅力 ではシュラブ樹形の特徴を、
それぞれ説明しています。
ハイブリッド・ティー系統の品種を育ててみたい方へ
[初心者必見]4基準から導くおススメの『木立ち性』バラ10選 ではハイブリッド・ティー品種を含む木立ち性タイプのバラのなかから初心者でも育てやすいおススメの品種を紹介しています。
よろしければこれらの記事もご覧ください。
本稿のまとめ
本稿ではハイブリッド・ティー[HT]という樹形の特徴と、そしてこれがどのように成立したのかを紹介しました。ハイブリッド・ティーという分類は学問的には非公式なものですが、バラの世界では一般的に使われています。
ハイブリッド・ティーがどこから来たのかを知ることでバラの樹形の理解が進み、あなたにとってより良いバラを探す手助けとなれば嬉しく思います。
本稿が皆様のより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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バラの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇