「ホワイト・クリスマス」は、名称のイメージからも伺い知ることができるように、「白いクリスマス」(つまり「クリスマス(クリスマスイヴ)に積雪があること」)をあらわしています。
日本は世界のなかでも特に「四季」に恵まれた立地にあることから、「雪」は数多くある身近な自然現象・冬の風物詩の一つであったり、距離を少し移動することで誰でも気軽に体験することができる場合も多いため、欧米諸国に住む彼ら(の多く)ほど雪に神秘性を見いだすことは少ないのかもしれません。
しかし世界には降雪が珍しい地域があることは言うに及びません。また、キリスト教では「白」は「清め」や「罪の赦し」をイメージさせる色味でもあります。クリスマスのような特別な1日が単なる「降雪」にとどまらず、見渡す限りの一面を埋め尽くした「積雪」をもって迎えることは敬虔なる彼らにとってさらに特別な感情を抱かせるに充分すぎるほどの素敵な出来事になるのだと思われます。
本稿は、降り積もる白銀の雪の降誕祭をイメージさせる名前の大輪系白バラ「ホワイト・クリスマス」の栽培実感です。品種の特徴や長短、栽培上のコツを紹介します。
目次
品種の情報
4基準データ
- 花色 : アイボリーホワイト[薄く黄色が混じるクリーム色を薄くしたような色味]
- 芳香 : ★★★★☆☆ [中香|フルーツ香]
- 耐病性 : ★★☆☆☆☆ [うどんこ病「弱い」|黒星病「普通」]
- 樹形 : 木立ち性|ハイブリッド・ティー|半直立
※4基準とはバラ入門者の方がはじめてのバラを選ぶうえでの指標となる4つの判断基準です。さまざまにある選択要素のなかから最も重要な4つの基準を紹介しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
⇒ バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準
⇒ ハイブリッド・ティーってなに?|新時代を開いた現代バラ誕生の物語
補足基準データ
- 花つき : やや悪い~普通
- 花もち : 普通
- 花形 : 半剣弁抱え咲き
- 花びらの枚数 : 30枚前後[最大]
- とげ : 大小の鋭くふといとげ
- 耐寒性/耐暑性 : 普通[冬:普通/夏:普通]
- 花径 : 12~15cm[大輪]
- 樹勢 : 普通
- 開花サイクル : 四季咲き
- 作出 : 1953年.アメリカ[Howard & Smith]
- 原名 : White Christmas
- 交配 : Sleigh Bells × 実生
※「半剣弁」「抱え咲き」など、バラの花形にはさまざまなものがあります。
⇒ 花びらと花のかたちで見る「花の表記」の読み歩き
※補足データは4基準に準じる2次的な基準です。4基準ほど育てやすさに直結するものではありませんが個々の花の個性を形づくる情報です。
育てやすさ|栽培難易度
ホワイト・クリスマスは「中上級者向け」の品種です。
バラの育て方の基本をしっかりとマスターされている方に向いています。
外観上の特徴
ホワイト・クリスマスは四季咲き性の品種で、冬期を除く春~秋に繰り返して何度も開花します。
つぼみ~ほころび
大輪品種のつぼみも最初はとても小さく、ほころびるとともに徐々に大きくなっていきます。
下の写真くらい開いてくるとかなり大きくなってきます。
開花姿への期待を膨らませる美しい開き方をする品種ですね。
咲き進むと外側の花びらから広がっていきます。
開花|花色の魅力
ホワイト・クリスマスの色味の特徴は、全体にアイボリーホワイトを基調にしつつ、花芯付近の中心部がほのかに薄い黄色を含んでいることです。
アイボリーとは象牙(または象牙色)の意味で、象牙のように「真っ白とまではいえないものの、白みを帯びた色」として認識されています。
象牙は西洋においても我が国においても古くから珍重されてきた高級素材の一つですが、それはこのような色味に私たちが大きな価値を感じてきたからに他なりません。
ホワイト・クリスマスの花色に上品な気品を感じさせる大きな理由となっています。
さらに咲き進むと花芯付近からじわっと沈みはじめ、終盤には下のような花姿に。
当初は「丸弁」と思われた花びらも「半剣弁」[花びらの先端に尖っているものがある]であることがわかります。
花つき
花つきがやや悪い~普通の品種です。
株にパワーが宿れば春の開花は見事ですが、2番花以降に次々とつぼみをあげてくるというタイプではないと感じています。そのため年間を通してみれば「普通」といったところと評価します。
花もち
花もちは普通程度。
ただ、大輪系の品種のわりには思ったよりも長く楽しめるという印象です。
白系のバラのイメージに似つかわしくないほどステム[茎]がしっかりとしていて、すらりと長い。
ただし、後述[栽培のコツ|灰色かび病に弱い.参照]の理由により切り花には適しません。[ご自宅で楽しむ分には不問かもしれませんが。]
香り
香りは中程度の強さのフルーツ香がします。[ダマスク+フルーツ香]
強香と言われる方もいるようです。ただ、管理人はさほど強いと感じません。
もっと強い品種は他にたくさんありますし、例えば、同じ白系大輪というカテゴリーでみても「 エレーヌ・ジュグラリス 」の香りの方がホワイト・クリスマスよりもかなり強く感じます。
その意味で、強香というには少し弱いかな、と感じています。
[もっとも、香りの知覚は個人差によるところが大きいので、中香という見解もある、といった程度に捉えてもらえればと思います。]
新しい葉と古い葉との対比
展開したばかりの若々しい葉[上]はやがて落ち着き深みを増します[下]。
下の写真も若い葉ながら、この葉の印象から病気への抵抗力は感じられません。
古い葉はこちら。
残念ながら、病気への抵抗力の弱さを感じる葉にどんどん変わっていきます。
葉のワックス層もかなり早めに落ちる印象です。
育てやすさについての私の実感
耐病性
バラはさまざまな病気にかかりますが、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。
この2大病の耐病性は「普通よりも弱い」と考えています。
うどんこ病への耐病性
うどんこ病に「弱い」品種です。
[※表記の参考:最低 < かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通 ]
例えば、うどんこ病に感染しているバラの横にホワイト・クリスマスを置けば比較的すぐに症状があらわれるかと思います。あらかじめ予防的に消毒していない限りは早い段階でうどんこ病に感染するでしょう。
ただし、他のバラがなく、ホワイト・クリスマスのみ1株だけ育てているような場合には、この株だけで単独でホワイト・クリスマス全体がうどんこ病にまみれさせられるほどではないようです。
また、大半の方が屋外[露地]限定で育てていると思いますが、露地栽培ではそこまで大きくうどんこ病の広がりは見られないです。[他方で、ビニールハウスなどの施設内であればうどんこ病の発生時期も早く、薬剤散布がないままにいるとほぼ確実に花を収穫することができないほどうどんこ病が広がります。]
要するに、ホワイト・クリスマスという品種だけで、これが感染源となって他のバラに積極的にガンガン感染を広げていくほどには弱くない、といった感じでしょうか。
その意味で「最低」「かなり弱い」とまでは言えないという印象です。
うどんこ病に「弱い」品種と評価したいと思います。
うどんこ病の症状|風が運ぶ脅威。季節はずれの粉雪がもたらす病害 ではこの病気について解説しています。
黒星病への耐病性
黒星病に「普通」の品種です。
[※表記の参考:弱い < 普通よりも弱い < 普通 < 普通よりも強い < 強い ]
春バラの開花シーズンまでに消毒しなくても5月の春バラのシーズンまでは葉を落とさずにもつ印象です。
ただし、梅雨時期になると黒星病に感染し、葉を落とすことになります。梅雨時期以降は定期的な薬剤散布で葉を保護したほうがよいと思います。
抵抗力まとめ
ご覧いただいたようにうどんこ病に「弱」く、黒星病も「普通」程度の強さのため、特に病気に強い品種ということはありません。
2大病への抵抗力は、間をとって「普通よりも弱い」と評価します。
樹勢
樹勢は「普通」の印象です。
基本的にあまり横には広がらず、上へと伸びていきます。[半直立]
背はそこまで高くなりません。[大型化しない。]
順調に生育させて株に力が宿ると春には見事な花を咲かせる株になっていきます。
うまく育てて株をより充実させることができればこのように大きく咲かせることができますが、ここまで育つには数年[最低でも3年以上]はかかります。また放置気味に扱ってしまうとここまで花を咲かせる株にはなりません。
ご覧の写真のようにより多くの花を咲かせるにはしっかりした管理が必要です。[=無条件に次々と蕾をあげてくる品種ではない。]例えば、 アンジェラ のように放置気味に扱ってもよく育って見事な花を咲かせる品種と同じように考えていると失敗します。
ホワイトクリスマスの樹勢を「[やや]強い」と評価している方もいらっしゃるようですが、管理人のこれまでの経験上そうは思えないので当サイトでは「普通」と評価します。
あくまでも平均的一般的な「普通」の強さのバラとお考えいただく方が実際に育てる上で失敗が少ないと思います。
とげの具合
ホワイト・クリスマスの若い枝のとげはご覧のように鋭いとげが少しある程度。
若い枝は慎重に扱うことで革手袋が必須というほどではありません。
対して、成熟した株元やその付近のとげは下でご覧いただくように多くあります。
鋭く大きなとげもそれなりにあり、小さなとげも散見されます。
革手袋を装着して取り扱うのがよいでしょう。
栽培のコツ
花が開きにくいので以下の点に要注意
大輪系のバラのなかでもホワイト・クリスマスの花びらの質は少し弱い印象です。花びらのつき具合・弁質が弱いのでちょっとしたことで花が開くことをやめてしまう傾向がある品種です。
「ボーリング」しやすい品種とも言います。ボーリングとは、すぐ下で述べているような原因のために咲き開く途中で開花をやめて固まってしまう状態をいいます。
ボーリングをさせない[または発生数を減らす]ために、花数を多くしすぎないように以下のことを頭にいれつつ日々管理することがホワイト・クリスマスのようなタイプの花を上手に咲かせるポイントです。
具体的には、
- 水を与えすぎる管理をしない[→梅雨どきの連日の雨にも注意]
- 肥料を与えすぎる管理をしない[→花びらにエネルギーを送りすぎない]
- 花芽を制限して、ひと花にエネルギーを集中させない[=花芽を適度に減らす・ピンチする]
- 生育期に強剪定をしない[→株元に近いシュートからの花芽になるのでパワーを与えすぎたまま開花させると開きづらくなるため]
など、これらを意識しながら日々の管理にあたると「花が開かない」というケースに対応しやすいと思います。
灰色かび病に弱い
灰色かび病とは、過湿[多湿]により生じる病気で、寒暖差の激しい時期や梅雨に発生します。春から秋、秋から初冬の夜露により花びらが水分過多に偏ることで生じるカビ菌によって花びら全体が覆われる症状です。
ホワイト・クリスマスの花びらの特徴として水分を貯めこみすぎる性質ゆえのものなのか、[あるいはそうかもしれませんが、]灰色かび病がでやすい品種として知られています。
露地栽培だと、特に寒暖差が激しい時期[夜露が多い時期]に多く見かける印象があります。
対策としては、
- 花びらがなるべく過湿・水分を受けないように工夫する
- 水を与えすぎる管理をしない[水やり少なめ]
などが大切です。[一般的な対処法]
と、これが一般的な対処法です。しかし、じつはホワイト・クリスマスの場合には、これらに気をつけていてもなお症状がビニールハウス内[過湿になりにくく夜露や雨などの水滴を受けない場所]ですらでやすいのです。[=鉢植えで家の軒下に移動させれば防げるというものではない。]
下でご覧いただける花はうちのビニールハウス内で咲かせたホワイト・クリスマスですが、赤いしみが生じていることがわかります。
ご覧いただいた2つの写真からもわかるように、ハウス内ですら赤い斑点がでやすいため年間を通して露地栽培で綺麗な状態の花びらをずっと見続けることはなかなか難しい品種とお考えください。
うちのハウスでも、気を付けていてもどうしても一定数の花には斑点ができてしまうので、「出荷する白バラ」という視点で見た場合には廃棄が生じやすいことから切りバラ用品種には向かないと考えています。
名前がロマンチックで花色も美しく素敵なだけに、これが販売用の切り花に向かないのはとても残念です。
なお、ご覧いただけるように、このように綺麗に咲かせることは問題なく普通に可能ですし、あくまでもここで言う切りバラに向くか向かないかは商業上、そして生産上の見地からの見方です。
頑張って販売されている他の生産者様もいらっしゃいます。
2~4つの花芽をつけるのでピンチ[摘蕾)する。ただしすべてはとらない
本来、ハイブリッド・ティー品種はピンチ[摘蕾]して一つの芽にエネルギーを集約して咲かせることが豪華な花になるのでおススメになるのですが、ホワイト・クリスマスの場合には花が開きづらい傾向[ボーリング]があるので、一つの蕾にエネルギーを集約させすぎるのはよくありません。
なのでピンチして間引きます。
ただし、脇芽を全部落とすと今度はボーリングする方向に傾きがちになってしまうので、こんな感じで2つ、3つとるくらいがよいでしょう。[脇芽は全部落とさない方がよい。]
うどんこ病を抑える環境で育てる。施肥は少なめにする
先述のとおり、うどんこ病に「弱い」品種です。
露地栽培であっても、多少は「うどんこ病を抑える」という意識があるとよいです。
うどんこ病を抑制する環境・方法は うどんこ病の症状|風が運ぶ脅威。季節はずれの粉雪がもたらす病害 内にある「要チェック|病気を助長する悪い環境を学び、予防環境を整えよう」をご一読ください。
適する栽培方法
ハッキリ言ってしまうと施設栽培[ビニールハウスなど]向けの品種だと感じます。[古い品種のため今日の基準から見ると耐病性の点で未熟さがある。]
地植えにせよ鉢植えにせよ、外で育てると「ボーリング」やら「灰色かび病」やら様々な被害を受けがちなので露地栽培全般にあまり適さない品種です。もっとも、ビニールハウスを設営するのは現実的ではありません。
そこで、耐病性の比較の点から「黒星病」への抵抗力が幾分マシ[耐病性「普通」]なので、定期的に薬剤散布をすることを前提に、地植えにして育てるのをおススメします。
地植えであれば上記[栽培のコツ]で説明してきた細かな事項を自然に実行しやすいのがメリットです。生じがちな「ボーリング」「灰色かび病」も薬剤散布やピンチで抑制します。
ホワイト・クリスマスの鉢植えは作業量や調整しなければいけない手間が地植えより増える分、おススメしません。鉢植えにしようが「ボーリング」「灰色かび病」は避けられないわけですから。それなら、手間が減る分だけ地植えにしておくのがよいです。
結論|育てやすいか?のまとめ
上記「栽培のコツ」「適する栽培方法」で特徴・対策を紹介してきたように難しさのある品種です。
中上級者向きのバラと評価します。
本稿のまとめ
本稿では、1953年の誕生以降、半世紀以上にわたり欧米を中心に広く、かつ長く愛されてきたハイブリッド・ティー白バラの銘花ホワイト・クリスマスの栽培実感を紹介してきました。
中上級者向けの品種で大変さもある品種ですが、バラの歴史的にも著名な品種の一つですので、栽培に慣れた方は挑戦なさってみると楽しさがあると思います。[初心者の方にはおススメしません。]
なお、ホワイト・クリスマスにはつる性の「つる・ホワイト・クリスマス」という品種も存在しています。他の栽培者から色々と特徴は聞いていますが、伝聞情報を栽培実感で紹介することは矛盾になります[→栽培「実感」にならない。]のでここでは致しません。
本稿がより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
写真・記事の無断掲載・転載を禁止します。
ホワイト・クリスマスの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇