早春から晩秋にかけてのバラの生育期に株元から生じるシュートには2種類あります。
ベイサルシュートと台芽の2つです。このうちベイサルシュートはとても大切なものである一方、台芽は残しておく必要がありません。
本稿は、どちらとも株元から生じるため初心者にはわかりにくいベイサルシュートと台芽の違いを紹介し、そしてなぜ台芽を残してはいけないか?またこれらを区別する4つのポイントなどをわかりやすく紹介します。
目次
ベイサルシュートとノイバラの台芽を見分ける4つのポイント
本稿で登場するバラ用語
まず最初に、本稿を理解するためのバラ用語の意味から確認しましょう。
これらの用語はバラを育てる上で頻繁に登場する大切な用語です。
- 接ぎ木[ツギキ] : バラをはじめとする植物の増やし方についての手法。増やしたい品種[栽培品種]の成長力が弱い場合に、同種の成長力に優れた個体[台木]とナイフで入れた切れ込みの切断面を接合させて一つの個体にするやり方。こうすることで増やしたい品種の生長力が強化される。現在の主流の方法で、日本で販売されているバラの大半が接ぎ木の株。
- クラウン : 大きく肥大化した接ぎ木の接合部分
- シュート : 新しく伸びてきた若い枝
- ベイサルシュート : クラウンから生じる勢いのあるシュート
- 台芽 : 接ぎ木の台木そのものの芽から生じるシュート。「サッカー」ともよばれる
- サイドシュート : 既に生じている枝からさらに生じるシュート。[=シュートから生じるシュート]
これらの用語を何度か目を通していただいて、それから本稿を読み進めると理解・イメージしやすいと思います。
ベイサルシュートはこれ
上の写真で、赤みを帯びた枝がクラウンから勢いよく伸びています。これがベイサルシュートです。
ベイサルシュートは株元からのパワーを受けて太く大きく生長し、翌年以降の主枝になる存在で、バラ栽培では最も大切にしなければならない枝です。
ご覧のように勢いよく伸びるベイサルシュートですが、勢いに任せて漫然と伸ばせたままにはしません。
処理の仕方が重要ですがそれはまた別稿に譲ります。
台芽はこれ
ベイサルシュートと似て非なるものに台芽[ダイメ]というのがあります。接ぎ木の台木[ダイキ]そのものから生じるシュートのことです。
台木というのは接ぎ木で使われている株のことで、日本の接ぎ木のバラではノイバラがこれにあたります。[ノイバラ部分から生じるシュート=台芽]
この台芽はおもに2~3年目までの株に生じやすいのが特徴ですが、それ以降の年度でも生じます。
台芽は1つだけ生じるわけではなく、ご覧のように複数の台芽が同時にでる場合もあります。[1~2週間程度の時間差でさらに台芽が生じる場合もある。]
ベイサルシュートと台芽が生じる個体と時期
ベイサルシュートと台芽は接ぎ木品種のすべてに生じます。
[※なお、挿し木もベイサルシュートは生じます。しかし、自らの根で生長する挿し木のバラに台芽は生じません。]
ベイサルシュートが生じる時期
バラの生育期である5月~11月に生じます。
台芽が生じる時期
ベイサルシュートが生じる時期とほぼ同じですが、台芽が生じる時期はそれよりも早く、3月~4月には生じる場合があります。
3月~11月が台芽が生じる時期です。
比べると2カ月くらい早く生じる場合があるということですね。
放置すればバラ界の下剋上が。台芽は不要なので摘み取る
欲年の主枝になるベイサルシュートが超大事ですが、台芽は不要なので見つけ次第すぐに摘みとります。
ベイサルシュートと比べても台芽はあっという間に急激に伸びます。これが生長するほどに本来の品種に届くはずだったエネルギーをこちらが消費しています。そのままにしておくと品種とノイバラの枝が併存し、やがて生命力に勝るノイバラが勝つことがあり、そうなると代わって品種が衰え、最悪の場合にはノイバラに取って代わられることもあり得ます。[まるで「バラ界の下剋上(ゲコクジョウ)」のよう。]
いずれにしても台芽が生長するのを漫然と放置・黙認していると、その分だけ本来の品種の樹勢を弱めてしまいます。
放置してはいけないシュートが台芽ということで、残しておくメリットがないので見つけ次第すぐに摘みとることが大切です。
ベイサルシュートか台芽かを見抜く4つのポイント
ベイサルシュートと台芽とを見抜く基準は、細かく言えば4つあると考えています。
それは、
- クラウン[=接ぎ木の部分]から生じているシュートかどうか
- 葉の展開速度の違い
- 葉の形の違い
- シュートが赤みを帯びているかどうか
の4ポイントであり、一番重要なのは①で基本的にはこれで判断します。
ただ、もしもややこしい場合があれば、その他の②③④を適宜確認しながら判断します。
①クラウン[接ぎ木部分]から生じているシュートかどうか
接ぎ木部分は年数を経るごとに大きく肥大化します。
この部分をクラウンと言いますが、このクラウンの箇所は栽培品種の株[販売されている商品名がついたバラ。例えば「アイス・バーグ」や「パパ・メイアン」など。]と接ぎ木された株[ノイバラ]が物理的に接合されている場所です。
そのためクラウンよりも下に栽培品種のシュート[ベイサルシュート]が生じることはあり得ませんし、クラウン部分からノイバラの芽[台芽]が生じることもありません。
クラウンを基準に、クラウン部分から生じているか、それとも下から生じているかでチェックします。
- クラウン部分から新たに生じるシュート = ベイサルシュート
- クラウンよりも下の部分から新たに生じるシュート = 台芽
と理解します。
[見分け方は①だけで判断できる場合が多い。]
②葉の展開速度が違う
もしも①クラウンから生じているかどうかがいまいちわかりにくい場合には、他の要素も確認しながら判断します。
このうち、葉の展開速度が違うというのも見分ける一つのポイントです。
ベイサルシュートの場合には、これが伸びると同時に葉が展開されることは見かけません。しかし、台芽の場合には、葉の展開が早く、シュートが伸びるとほぼ同時に葉が展開されます。
台芽の特徴のひとつはシュートが伸びはじめるとともにほぼ同時に葉が展開されることです。逆にベイサルシュートはこうではなく、一歩遅れた感じです。
③葉そのものが違う[形が違う]
また、葉の展開速度だけでなく、葉の形それ自体に違いがあります。[そもそも別品種なので葉に違いがあるのが通例。]
次の写真のように、既に生じている栽培品種の葉と新たに生じた台芽の葉[ノイバラの葉]とを見比べながら確認するとわかりやすいです。
④シュートが赤みを帯びているかどうかでチェック
ポイント1|赤みを帯びていることが「多い」ベイサルシュート
さらに、バラの本の中には「ベイサルシュートが赤みを帯びているかどうか」でチェックすると説明されていることがあります。
たしかに、ご覧の写真のようにシュート全体が赤一色のベイサルシュートがわりと多くあります。
このような赤一色のシュートは木立ち性|ハイブリッド・ティー品種を中心として見られるのが特徴で、一見してベイサルシュートであることがわかります。
※ ハイブリッド・ティーってなに?新時代を開いた現代バラ誕生の物語 でハイブリッド・ティーについて詳しく紹介しています。
ポイント2|赤みが弱いベイサルシュートもある
ただし、管理人の経験上、赤みを帯びているかどうかだけでは判断できない場合もしばしば見かけます。赤一色かどうかだけで判断しないようにします。
系統や品種によっては赤みの弱いものがあることを知っておきましょう。
例えば、次の「アンティーク・レース」は「ビブ・ラ・マリエ!」と同じ木立ち性ですが、ベイサルシュートの赤みはとても弱く、こうした場合には葉柄の近くの赤みもよくチェックする必要があります。[「アンティーク・レース」は木立ち性|ミニアチュア系統]
ポイント3|台芽のシュートもじつは少し赤い
また、ややこしいことに、じつは台芽のシュートにも少なからず赤みがあります。
展開直後の台芽のシュートも弱いながら赤みを帯びています。
そのため「④赤みを帯びているかどうか」だけで判断するのはやや早計です。
アンティーク・レースと見比べるとわかりますが、ステムの色味だけでは判断しきれないというのが伝わるかと思います。
4つのポイントのまとめ
以上見てきたことから、基本的には①クラウンから生じているかどうかを軸に判断し、補足的に横目に確認する程度に②葉の展開速度や③葉の形、そして④シュートの赤みを確認する感じでよかろうと思います。
台芽の摘み取り方
不要な台芽と判断できたらすぐに摘みとりにかかります。
これは付け根から指で折り取ることができます。[指で摘みとる手法を「ソフトピンチ」と言います。]
次の写真ではここが芽の発生カ所なので、このように芽の付け根をしっかりと持ってつまむとさほど力を入れなくても簡単に摘みとれます。
このように。
不要な台芽はなるべく早期に見つけ、大切なバラの養分を無駄にとられないように注意したいですね。
本稿のまとめ
さて、いかがだったでしょうか。
本稿ではバラの生育期に株元から生じるシュートには2種類あること、その見分け方などについて紹介してきました。
本稿がより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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バラの管理/Sentence/All photos:花田昇崇