高級な切り花として扱われる「ジュリア」は、えも言えぬシックなブラウンの花色とエレガントに波打つ花形が見るものを虜にさせるバラです。このジュリアに魅了される者があとをたちません。
ときに気品のバラはその裏返しとして往々に気難しさを秘めている場合があります。ジュリアもまた育てていくうえで気難しさを感じる場面を多く見受ける、そんな品種です。
本稿は、気品のバラ「ジュリア」の栽培実感です。花色の魅力から花もちの良し悪し、耐病性、とげの具合、そして育て方のコツなど多岐にわたる特徴のすべてをジュリア栽培のプロが説明します。
目次
品種の情報
4基準データ
- 花色 : ブラウン[茶色]~ミルキーベージュ~ベージュ
- 芳香 : ★☆☆☆☆☆ [微香]
- 耐病性 : ☆☆☆☆☆☆ [うどんこ病「かなり弱い」|黒星病「かなり弱い」]
- 樹形 : 木立ち性・ハイブリッドティー[直立.1.3×0.8㎝]
※4基準の考え方は バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準 を参照ください。
※こちらの記事はジュリアをはじめとするハイブリッド・ティー品種がバラ界においてどのような位置づけであるのか、またその魅力とはどのようなものなのかなどについて説明しています。併せてご覧いただくことで一層ハイブリッド・ティー系統の理解が深まります。
⇒ ハイブリッド・ティーってなに?|新時代を開いた現代バラ誕生の物語
補足基準データ
- 花つき : かなり良い
- 花もち : かなり悪い
- とげ : ほぼない
- 対候性 : 弱い[耐寒性/耐暑性(冬:やや弱い|夏:かなり弱い)]
- 花径:10cm
- 樹勢:やや弱い
- 開花サイクル:四季咲き
- 親品種 : ブルー・ムーン
- 作出 : 1976年.イギリス
- 原名 : Julia
外観上の特徴
ジュリアは四季咲き性の品種で、冬季を除く春~秋に繰り返して何度も開花します。
後述する側蕾(ソクライ)をしっかりと行うことですらりと細くて繊細な枝の先に一輪の花を咲かせます。切り花として楽しむことができる品種です。
女性からの支持が特にあついジュリアの特徴を見ていきましょう。
開花の様子
花色
一番の見どころは何と言ってもこの花色。
透けて見えそうな薄い花びらに薄くブラウンがのる洗練された色味。ときにミルキーベージュにも。
このバラの魅力はこの美しい花色に凝縮されているのだと思います。
花びらの外側にゆるやかにかかるウェーブが繊細な花色の美しさを引き立てます。ジュリアの魅力の多くはこの花色に凝縮されているのだと感じています。
花もち
花色の美しさが際立っているバラですが、残念ながら花もちは良くありません。
耐病性の弱さ以上に、ジュリア最大の弱点が花もちの悪さです。
気温やその他の環境にも左右されるためあくまでも目安にすぎませんが、早いときには開花から1日と持ちません。平均して2~3日程度が目安です。[高温環境に特に弱い]
満開の状態からさほど時間がかからず下の写真のように開きます。花びらを保持する力が弱いのだと思われます。
開花日より数えてわずかに1~3日。美しい花姿を長くとどめてくれないため、枝に咲かせたままにして長く楽しむことには向きません。早めに切り落とすようにします。
切り花にして「切り花延命剤」を用いたり、室温を下げるなどでなるべく低温環境にすることで花もちを伸ばすように工夫します。
花つき
花もちの悪さが残念ですが、他方で花つきはかなり良い部類になろうかと思います。
しっかりと生長して根を張っていればという条件つきですが、よく充実した株のジュリアからは次々とつぼみがあがってきます。うまく育てれば花もちの悪さはさして気になりません。
花つきの悪さと花つきが良いこのバラの特徴から、ジュリアをよりよく楽しむためにはしっかりと株を育てることが大切です。
香り
開花初期にはティー系のほのかな芳香があります。[微香]
ただし、かなり弱いので開花より1日もつかもたないか程度で消え去ります。
香りは切り花にすることで更に急速に失われます。香りを楽しむには枝から切り落とす前に直接顔を近づけて楽しむのがよいでしょう。
育てやすさについての私の実感
耐病性
バラはさまざまな病気にかかり、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。
この2大病の耐病性が「かなり弱い」品種です。むしろ、よりハッキリと言ってしまうと耐病性がほぼないと言って差し支えないのが私の実感です。
詳細を見ていきます。
うどんこ病への耐病性
うどんこ病の抵抗力が「かなり弱い」品種です。
[表記の参考: かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通 < 普通よりも強い]
うどんこ病にとにかく弱く、薬剤散布をしなければ夏と冬以外はうどんこ病の多発に悩まされることになります。
枝葉が粉まみれになるだけならまだしも、つぼみも粉まみれになり開花せず花を楽しむことができません。またはなんとか開花したとしても花数が極端に減ります。
放任栽培では悲惨な状態になることがほぼ確実です。
食酢はうどんこ病・ハダニ・窒素過多の解消に効能があります でも紹介したとおり、うどんこ病は重層や食酢などの特定防除資材である程度はリカバーすることが可能です。もっとも、「かなり弱い」抵抗力なので特定防除資材だけでカバーしようとするのはなかなか大変だと思われます。
化学農薬の散布が必須だと考えています。
なお、 うどんこ病の症状|風が運ぶ脅威。季節はずれの粉雪がもたらす病害 ではこの病気について解説しています。ご一読ください。
黒星病への耐病性
黒星病への抵抗力が「かなり弱い」品種です。
[表記の参考: かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通 < 普通よりも強い]
うどんこ病と同じで化学農薬の散布が必須です。薬剤の散布をしなければ確実に黒星病にやられます。
感染スピードも早く、あっという間に大部分の葉を失うこともまれではありません。大部分の葉を失ってしまったジュリアは以後は花を楽しむどころではなくなります。状況は枯死との戦いのステージへと移行します。樹勢が強くないジュリアは、必ずしも丸裸と栄養失調の状態で成長していけるほど強くはないのです。
ジュリアをこのような過酷な状態に追いやらぬように薬剤散布を行いましょう。
耐病性まとめ
ご覧のようにうどんこ病と黒星病ともに「かなり弱い」品種です。
薬剤散布の知識が不可欠の品種と言えるでしょう。
樹勢
「やや弱い」樹勢です。
病気や悪環境をものともせず生長していける強さは持ちあわせていません。
とげの具合
とげがかなり少ない。[ほぼとげがないと言ってよい。]
素手で扱っても大丈夫なバラです。
栽培のコツ
必ず側蕾すること
ジュリアはハイブリッドティーですが、側蕾(ソクライ)がほぼ不可欠の品種です。
側蕾をしなければ上の写真のように枝先についたつぼみがランダムに開花し、花のどれもが貧弱に咲きます。
側蕾(ソクライ)のススメ|ハイブリッドティーは豪華に咲かせて一輪の美を楽しもう を参考にぜひ側蕾するようにしましょう。
開花をコントロールすること
ジュリアは花つきが良く、株を充実させた上で施肥が適切であれば次々とつぼみがあがってきます。ただし、注意点はすべてを咲かせようとして欲張らないことが大切です。
すぐ上で説明した側蕾をしっかり行えば開花数は自ずと限られます。その限られた開花数からさらに適度につぼみを落としてあげるのが良いと考えます。
側蕾がきっちりできている前提で、連続開花させずに開花周期をコントロールするということです。
芽かきもしっかり
ここまでのことを実践できていればわりと多く新芽(サイドシュート)がでてきます。ただし、そのまま放置していると元々細い枝が分枝により更に細くなり良い花が咲きません。
枝を分散させず、主枝をしっかりと作っていくために芽かきをしっかりと行いましょう。
芽かきについては 芽かきを行う3つの目的|良いバラは良い枝に咲く。枝づくりのために行う春の必須作業 を参考にしてください。
その他の注意点
水分をしっかりと吸い上げる速度やパワーが弱いので根を大切にしたいところです。
日々の管理ではまずしっかりとした根をはらせることを第一に考えてください。
株が充実するまでそれなりの時間がかかるので焦らず急がず見守ってあげましょう。
適する栽培方法
一概には言いづらいところですが、強いていえば地植えがより適しているかもしれません。
鉢植えで花が咲かないわけではありませんが、施肥や水やりの頻度・水量などでジュリア特有の諸々のさじ加減が生じ、地植えよりもさらに難易度と手間が増えます。
地植えをおススメしておきます。
黒星病への弱さは各自が工夫して対応することが必要です。耐病性がほぼないバラなので手がかかりますがこれはやむをえません。
予防薬剤をきっちりと散布していることを前提に、降雨のときはなるべく雨が当たらないような努力をしたいところです。
結論:育てやすいか?のまとめ
- 耐病性がほぼない品種で薬剤散布が必須
- 側蕾と芽かきをしっかり行う
- あまり花を咲かせすぎない
- 地植えをして、雨が当たらない努力をする
この4点を意識しましょう。
世間ではジュリアは気難しいバラだと言われているとおり、育てやすいとは言えない品種だと思われます。
具体的に特に意識すべきはこの4項目あたりだと考えています。[上級者向き]
本稿のまとめ
さて、いかがだったでしょうか。
手のかかる気難しさとあまりにも美しい花姿が気品を感じさせるバラ・ジュリアの花ことばをご存知でしょうか?なんと「努力の人」だそうです。美は一日にしてならず、見事に咲かせてごらんなさい。とまるでジュリアが微笑みかけてくるようですね。
じっくりとジュリアと向き合って、五感をもってその声なき声に耳を傾けことでいつかジュリアを攻略できるその日まで。
本稿が皆様のより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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ジュリアの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇