「この野菜は無農薬栽培です。」としばしば見かけるこんな記述。
当サイトも食酢を病害虫の防除におススメしていますが、じつは「食酢を使って育てた場合には無農薬栽培ではなくなる」ことをご存知でしょうか。手軽に使えて、かつ安全な「食用の食酢や重層が農薬である」と言われると驚かれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本稿では、口に入れても安全なはずのこれらがなぜ危険なイメージのある「農薬」になっているのかについて、「農薬とはいったい何なのか」という点を交えて説明したいと思います。
目次
「農薬」イメージの誤解
病害虫に効果がある薬剤イコール農薬ではありません
農作物に対する薬効の認められた薬剤のうち、
「“なんとなく”身体に安全そうなものは無農薬」で、
「“なんとなく”身体に害のある成分が入っているものは農薬」
といったなんとなく漠然としたイメージでとらえられている方がいらっしゃるかもしれませんが、そういったことではありません。
農薬取締法に規定があるかどうかで決まる
農薬になるかどうかは、法律に規定があるかどうかで決まります。
「農薬取締法」という農業用薬剤の使用に関して取り決めた法律があります。薬剤はこの法律に基づいて登録していない限り製造販売業者・輸入業者は製造・販売することができず、またユーザー側も使用が制限されるようになっています。
この農薬取締法の登録手続きをパスした薬剤だけが法律的な意味での「農薬」を名乗ることが許されます。安全性が高いから「非農薬」で、安全性が低いから「農薬」といった考え方ではありません。
安全性の点で見れば、むしろ厳正な審査を経て登録が認められている「農薬」のほうが類型的に安全性が高いと言えますし、それ以外の薬剤等は何らかの理由で登録が認められなかった[または何らかの理由で登録がなされなかった]という意味で安全性には疑問符がつくと言えるでしょう。
これは農薬を理解する大切な視点です。
まとめ|農薬とは?非農薬とは?
まとめると、
- 農薬=現在農薬取締法に規定のある農作物に薬効が認められている薬剤
- 非農薬=現在農薬取締法に規定のない農作物に薬効が認められている薬剤。またはそもそも薬効が認められていない薬剤
とご理解ください。
[注意]無農薬栽培=安全、とは限らない
無農薬栽培とは以下の3つに該当する場合をさします。
- 薬剤を含む一切の「農薬」を使わない方法
- 法の基準を満たしていない[=安全性が未確認の]薬剤を使用する方法
- 非農薬を使用する方法
上記のうち、私たちが「無農薬栽培=安全」をイメージするのは①です。
ただし、②と③も「無農薬栽培」になることには充分注意したいところです。
たとえば②のように法律による申請をしても基準を満たせず登録が認められなかった薬剤があったと仮定します。この場合、農薬取締法に登録が認められなかったこの危険な薬剤を使っても「無農薬」と言えてしまうのです。
特に危険性が高いのは③です。[後述]
「無農薬栽培だから安全」という意識は危険が伴う認識です。
「農薬」と「非農薬」の分類
法に登録のある農薬と登録されていない非農薬は、さらに以下のように分けることができます。
法に登録のある「農薬」
- 農薬[一般]
- 生物農薬
- 特定農薬
農薬[一般]とは
農薬[一般]とは毒性試験検査を経て登録が認められた薬剤です。
「農林水産省登録〇号」という登録番号と「殺菌剤」・「殺虫剤」などの表記があります。
これらの農薬はホームセンターや農業資材の専門店、インターネットで購入することができます。
生物農薬とは
生物農薬とは、たとえばアブラムシに対してそれを捕食するテントウムシを用いて害虫を駆逐するなど天敵や微生物を利用して対象とする害虫を防除する方法を言います。[生物的防除とも言われる。]
「テントウムシが農薬だよ。」と言われると一瞬とまどってしまうかもしれませんね。
生物農薬は古くから行われてきた農民の生活の知恵です。食物連鎖を利用して害虫を減らす方法です。
自然の摂理に委ねる方法です。必ずしも即効性が高いとは言いきれない場合もありますが、ある程度ゆっくりと時間をかけて自然環境と共生していく環境に優しい方法と言えるでしょうか。
ただし、注意点は、外来生物を用いることは避けなければなりません。生態系の破壊に逆につながりかねない危険があるからです。
特定農薬[特定防除資材]とは
特定農薬というのは2002年に新設された概念です。
農作物に対する薬効があり、なおかつ安全性が高いものとして認められたもの[=特定防除資材]が農薬の一種類として指定されることになりました。
2019年4月現在で計5つが指定されていますが、バラ栽培ではこのなかの「重層」と「食酢」を主に使っていくことになろうかと思います。どちらも身近な食品スーパーで手軽に手に入れることができます。
重層と食酢が人体へ安全なのは言うまでもありませんが、散布濃度などで注意すべき点があります。下記を参考に、ぜひ日頃の防除に取り入れてみてください。
⇒ 食酢はうどんこ病・ハダニ・窒素過多の解消に効能があります
登録されていない非農薬
ここからは安全性が認められていない[=類型的に危険性が高い]農薬を説明していきます。
- 無登録農薬
- 失効農薬
- 販売禁止農薬
- 指定保留中の特定農薬
無登録農薬とは
無登録農薬とは、法の基準を満たさなかった薬剤です。海外で販売されていても国内で登録されていないものはこれに含まれます。
無登録農薬の危険性の高さは言うまでもありません。
[※危険度:大]
失効農薬とは
失効農薬とは、一度は登録を受けたものの販売業者側で何らかの事情が生じたことにより失効してしまった薬剤を言います。[=言葉を変えれば「元農薬」]
この失効農薬も危険性が小さくありません。
というのも、農薬取締法の登録制度には更新制度がとられており、一度登録を受けた薬剤は製造販売・輸入業者が定期的に更新料を支払って更新していかなければならない仕組みになっています。
この更新料はさして高い金額ではないのですが、何らかの理由によりこの更新がなされなかった薬剤は販売が禁止され、失効農薬となります。失効する事情は様々でしょうが一度は販売が許された権利を自ら放棄するわけですから何らかの理由がありそうです。
たとえば「井筒屋松根木酢液」という1971年に発売された「木酢液(モクサクエキ)」があります。現在は失効しており、これが失効農薬に該当します。
失効農薬の個人使用は法律上禁止されてはいません。ただし取り扱いは自己責任という形です。
[危険度:中]
[木酢液を「農薬として」使うことを私はおススメしていません。当サイトでも農薬としての木酢液の効果の検証は行いません。]
販売禁止農薬とは
販売禁止農薬とは、登録後に危険性が明らかになったため発売が禁止された薬剤です。
もちろん危険です。
[※危険度:大]
指定保留中の特定農薬とは
指定保留中の特定農薬とは、特定農薬に指定されるまでには至らず農薬としての薬効が明らかでないものを言います。
「特定農薬に指定されるには至らないもの」ということの意味は、簡単に言ってしまえば、絶対に効果があるとは言い切れないものがここに含まれます。古くからの経験則で使われてきた資材がこれらに含まれます。
- 木酢液(モクサクエキ)
- 焼酎
- ヒノキの葉
などが検討されているものの一部です。
このうちバラ栽培家のなかで愛用者が多いのが「木酢液」です。これの農薬的な使用についての言及は避けますが、なかなかお値段がはるので費用対効果の面で少しネックかもしれません。ただ井筒屋の木酢液がかつて農薬登録されていたこともあることから今後新しい進展があるかもしれません。
現在の木酢液は農薬としてではなく、土壌改良剤としての用途で販売されています。
[危険性:小]
人体や環境への影響力を正しく知って取り組みたい
わかりましたか?食酢や重層が農薬になる理由
ここまで「農薬」と「非農薬」の違い、すなわち農薬となるか非農薬となるかはひとえに農薬取締法の登録を受け、現在もその規律下にあるかどうかで決まってくることを説明してきました。
これまで見てきたことをまとめると、
- 化学「農薬」を使用→農薬栽培
- 食酢や重層を使用→農薬栽培
- テントウムシを使用→農薬栽培
- 失効した木酢液を農薬として使用→無農薬栽培
- 焼酎を使った害虫防除→無農薬栽培
- 販売が禁止された危険な農薬をひっそりと使用→無農薬栽培
などのようになります。
農薬なのかどうかが安全性の高低に直結するものではないことがおわかりいただけたのではないかと思います。
まれに「農薬は危ない」といった話を聞きます。これは多分に誤解が含まれているように思います。
「農薬」は正しい知識をもった者が用法・用量を守って適正に使用する限り危険性はありません。ドラッグストアーで購入できる薬とまったく同じ意味合いのアイテムです。
ホームセンターなどで販売されている家庭用農薬もユーザーがきちんと説明書に従って通常の用法・用量を守る限り問題が起こらないようになっています。「風に乗って他者加害につながるから。」という理由も耳にしますが、正しい使用方法を守れば大丈夫です。
大切なことは、「農薬だから危ない」のではなく、危険な非農薬[無登録農薬、販売禁止農薬、失効農薬など]をそうと知らずに使ってしまうことや、正しい使用法をわきまえずに無造作に「農薬」を扱うことが危険であることを知ることです。
有用性も危険性も正しく学ぶことで「農薬」はバラ栽培の不可欠の武器になります。
[プロのバラ栽培家で農薬を忌避している人はいないと思われます。]
私たちローズフェスタの食用バラ
ローズフェスタでは私たちの人体や環境への影響力の大小を基準に「農薬」その他の資材を検討しています。
かけがえのない私たちの健康を維持・増進するために。そしてかけがえのない環境を維持・保全していくために。これらの目的のためにいかなる資材を使うのが良いのか、を考えています。
他方で、工業製品のような高い完成度を求められる観賞用のバラ(切り花など)にはどの程度の農薬散布量が最低限度必要なのか。それと対極にある食用のエディブルローズ(食用バラ)に求められる食品としての安全性と付加価値としての+αはいかに確保していくべきなのか。
このような問いかけのなかで私たちローズフェスタは「農薬」と正しく向き合い、適切に扱っていきたいと考えています。
⇒ 参考 : [探し方を伝授]エディブルローズ(食用バラ)の可能性を語る旅路
本稿をご覧になり、あなたはどのようにお考えになりますでしょうか?
本稿のまとめ
さて、いかがだったでしょうか。
本稿では食酢や重層が農薬となる理由を説明するために農薬と非農薬との区別の仕方を、そして農薬についてのローズフェスタの考えを紹介してまいりました。
本稿が皆様のより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
写真・記事の無断掲載・転載を禁止します。
Sentence:花田昇崇
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