バラも、我々人間と同じように精いっぱいに生きることで見事な花を咲かせるのですが、それはバラの命の結晶ともいえる産物です。
見事な花を咲かせるためには、バラの栽培に携わる我々がただ漫然と自然に任せたままで放任すればよいというものではありません。さながら親が幼い我が子を慈しむように、人間もバラに寄り添い、バラの成長を適度に支えてあげることが大切です。そうすることで立派に咲いた花という贈り物でバラは我々の五感を楽しませてくれることでしょう。
咲く花を介して、人間とバラとは相互共生の関係にあるのだと思います。
本稿はバラ栽培・入門編です。これから新たにバラ栽培に挑戦しようとされる方を対象に、素晴らしい花を咲かせていくための前提知識として最低限知っておくべき[超]入門知識についてご案内します。
目次
バラが好む環境1.日当たり(日光)
原則!バラは日当たりを好む
植物であるバラは、太陽からの光のエネルギーを葉から取り込むことで活動するためのエネルギーを作り出しています(光合成)。
植物の中には観葉植物などであまり日光を必要としないものもありますが、植物のなかでもバラは日光をとても好みます。もしも可能であるなら朝から晩まで常に太陽の当たっている環境がバラを育てる最善の好地です。
生育に必要な生育日光量
とはいえ、誰もがそのような恵まれた環境とは限りません。都心部ではなおさらです。午前中だけ、又は午後だけなど、一日のうち数時間しか光合成をさせてあげられないケースが実際には多かろうと思います。
それでは「どれくらいの時間であれば生育上問題ないのか?」ということが気になるポイントですが、結論から言えば、一日合計で4時間程度あれば大丈夫です。
(ただし、品種によっては、3時間だとちょっとキツイかな~というのもあります。他の場所で植えている同品種と比べて花があまり咲かないわけです。その逆に、日陰に強い品種というのもあります。)
うちは朝日だけ…。うちは夕方だけ…。午前午後と日差しが偏っている場合には?
日照時間はトータルで見てもらえれば大丈夫です。朝日だけでも良いですし、日差しの弱い西日だけでも大丈夫。「うちは西日だけしか入らないから・・・。」と言ってバラ栽培を断念する必要はありません。
(なお、山野草などは西日では育ちません。でもバラは大丈夫。)
日光の重要性
バラの花は案外と簡単に咲くと思っている方がいるかも知れませんが、じつはバラが花を咲かせるには相当のエネルギーが必要です。一度咲かせると体力を消耗してグッタリしている、といったイメージを持ってあげてください。そのために肥料をあげてバラの体力を補ってあげることが大事になるのです。
(肥料についてはまた別の機会でお話しします。)
体力を維持できるよう、そして速やかに体力を回復できるように、なるべくバラのエネルギー源である太陽光をしっかりとあててあげて下さい。
追記:日光と温度(気温)
品種にもよりますが多くのバラは高温環境がとても苦手です。5月以降の高温期の強すぎる日差しに注意が必要です。
葉焼け(葉が焼ける症状)や、鉢栽培の場合には鉢が高温になることによって根が焼けるなどの症状につながります。現代バラの多くの品種は冷涼な地域である西ヨーロッパで作出されています。日本の高温期・夏はバラには過酷すぎるのです。
日光は好むが高温は好まない。
これをぜひ忘れないように。暑すぎる日には遮光したり、打ち水でクールダウンしてあげるなどの対策が有効です。
バラが好む環境2.風通し(通風)
適度に風が必要
そもそも論として、植物が健全に成長することのできる自然環境下で全く風がふかない(=完全な無風)状態ということはあり得ません。
屋外であれば自然のままの風がありますよね。人間にも心地よく感じられる自然の風量の風。このような風はバラにとっても大切です。
風通しが必要な理由
風通しが必要な理由を見ていきましょう。
例えば屋内でのことですが、室内で締め切ったまま、窓際でガラス越しに太陽光を浴びせつつ育てているバラが軟弱に育ちやすいというのをご存じですか?このような環境で育てると、ヒョロヒョロっと細長く育ちやすくなるのです。枝が太くならず充実しません。
(充実していない枝からは良い花が咲かず、貧弱な花が咲きます。)
この原因は、無風状態で空気を滞留させているためだろうと思われます。
反対に、屋外での地植えや鉢栽培の場合には、通常それなりの風を受けて生育しており、空気を滞留させた状態で育てたバラとは明らかに違ってきます。
無風状態=害悪?
無風状態が何よりマズいのは、様々な病害虫の発生原因になる点です。
暑い時期になれば無風状態で混み合った枝の内側で蒸れも生じます。これらが非常に良くありません。
無風状態が即座に重大な害悪とまでは言わないものの、健やかな成長を阻害する一因であることは知っておいた方が良いと思われます。
風通しを良くする方法
風通しをよくする環境を意識するのが大切です。例えば、
- 鉢植えの場合には、相互の鉢の位置を動かすなどしてスペースを広くとる
- 地植えの場合には、雑草を切除したり他の植物を短く切ったりなどの環境整備につとめる
- 鉢・地植えいずれの場合でも、株の内側などの枝が密集していれば適宜剪定(センテイ)を行う
などを心がけるだけでもずいぶん風通しが良くなります。
風通しが良いか悪いかを判断するポイントは、株の外側の枝葉だけではなく、内側の枝葉も充分に風にそよいでいるか、という視点で見てあげてください。
風通しがよければバラは健康に育つ
適度に風にあてる。このことを少し意識しておけばバラは丈夫に育っていきます。
ただし、念のために言えば、台風などの強すぎる風はもちろん良くありません。強すぎる風によってせっかく成長した枝が折れるケースがわりとよくあるからです。
強い風への対策は、折れないようにバラを植え替えたその段階で支柱を立ててしっかりと結いつけるようにしておきましょう。
バラの好む環境3.適する土(土質)
初心者から上級者まで。土の問題
簡単なようで奥深いのが土の問題です。
- 土の理解
- 水やりの頻度・水量の見極め
- 適切な施肥(肥料)
この3項目の理解次第がバラ栽培の入門者と上級者とを分かつ分水嶺だと私は考えています。
不可欠の基本知識にして、応用事項でもある土をめぐる理解は本来奥深く難しい問題でもあります。とはいえ入門段階の本稿では大まかに理解していただければ構いません。まずは基本を知っておくことが大切です。
土とはバラの「マイホーム」。住環境の問題
単純に言ってしまえば、土はバラにとってのマイホームそのもの。もしくはマイホームの近隣環境のようなものです。
さて、例えばご自身であればマイホームを選ぶ際に最も重視するポイントは何でしょうか?住みやすさ、暮らしやすさ、通勤の便、エトセトラ…。色々あろうかと思います。しかし実際にはこれらのどれか1要素のみに依拠することはなく、結局は各点を総合的に見たうえでそこに納得できる快適さがあるかどうかという視点で決めていくことになるのではないでしょうか。
このような視点は土の問題についても同じです。バラにとって快適な住環境を用意する。これが土(土質)の問題です。
マイホームとは、具体的には?
マイホームを例にこの流れで説明すると、マイホームのタイプには大別して3つを考えてみたいと思います。
- 建て売り住宅(新築)
- 購入者が設計・デザイン段階から関与したオーダーメイド住宅(新築)
- 中古物件
この3つを考えるとします。この1~3を土に換言するとそれぞれ以下のようになります。
- 市販の培養土(新品)。各人の事情にかかわらず均一に成分調整がされている。
- オリジナルブレンドの培養土(新品)。自ら各種成分を自ら調合した自分の状態にあう土。
- バラや他の野菜などで使い古しの培養土(中古)
のように対応します。
3種類のマイホームのうちどれが良いの?
まず、2.オリジナルブレンドの培養土と3.使い古しの培養土について説明します。
オリジナルブレンドの培養土
土の問題が奥深いと先に説明しましたが、このオリジナルブレンドがその奥深い世界へと至る道です。入門段階で扱う内容ではありません。機会があれば別稿を設けて説明していきたいと思います。
使い古しの培養土
使い古しの培養土というのは、例えば野菜を植えていたとします。その野菜を植えていた土を野菜の収穫後などに集めてきてバラのために使いまわすといったケースです。もしくは、バラを植えていた土を転用するなどのケースです。
土の再利用ということではありますが、これにはいろいろな問題が生じます。バラを地植えにするのであればまだ大丈夫ですが、入門段階では他の知識が必要になってきますし、ひとまず避けておいた方が無難だと思います。
つまり消去法
要するに、入門段階では市販の培養土をおススメしておきたいと思います。
入門者のマイホーム=市販の培養土
市販の培養土に違いはない
入門段階での土は、市販の土(バラ専用の培養土)で良いと思います。
バラ専用の培養土といっても、業者により様々な種類が販売されています。各社それぞれに売り文句があり違いを打ち出していますが、正直なところ、そこまで大きな違いがあるわけではないと感じているので、どの業者の培養土を使うかはご自身の判断でお好みで選んでもらえれば良いと思います。
いずれにせよ、市販の培養土でバラは育ちます。最も手軽に済ませるにはこれでよいでしょう。
ただし“建て売り住宅的なもの”
ただし、市販の培養土は、画一的な建て売り住宅ですから、それなりに機能的ではありますが、やはり必ずしもあなたの望む機能を備えた最適な住まい・環境であるとは言えない場合が往々にしてあります。
つまり、バラにとって市販の培養土は必ずしも最適とは言えません。手軽だがベストではない、ということです。
おススメするのは建売住宅の改装
ひと手間でバラは美味しく咲く
そのような点を踏まえ、建て売り住宅に少し手を加えてみることをおススメします。どの業者の培養土についても赤玉土をプラスアルファとして追加するのが良いのではないかと思います。
市販の培養土は粒子が細かく、かつ軽すぎるきらいがあるように見えます。そのため鉢植えであれば「赤玉土・小粒」あたりを追加し、通気性と保水性を足してあげるのが良かろうと思っています。この理由は、経験上、市販の培養土のみで鉢植えすると根張りが芳しくないケースが多いためです。
赤玉土を加えるだけで、生育初期の段階の根張りが変わってきます。料理と同じく、このひと手間でバラの花は美味しく咲きますよ。
培養土:赤玉土の配合割合
配合については、
市販の培養土:赤玉土(小 又は 中)=6.5:3.5
くらいが良いでしょう。培養土の中に赤玉土を上記の量(目分量でOK)を入れてよく混ぜます。
なお、赤玉土には、小粒以外に、大粒、中粒の計3種類があります。鉢植えには小粒が基本ですが、中粒でも構いません。地植えであれば中粒か大粒が良いです。小粒でもダメということではありません。赤玉土は最寄りのホームセンターやインターネットで購入が可能です。硬質と軟質がありますが、硬質はやや高価なため、とりあえず通常の軟質で構いません。
バラが好む環境4.水やり(水量)
水やりについては長文となるので別稿を設けています。こちらをご覧ください。
本稿のまとめ
さて、いかがだったでしょうか。
入門者の方であれば聞きなれない言葉や知らないことが多かったかも知れません。ですがどれも無理に覚える必要はありません。バラ栽培をはじめられるその頃に「あ、そういえば?」と思い出してもらい、その折に参照してもらえれば足ります。
本稿が皆様のより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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Sentence/All photos:花田昇崇