ふと気が付けば、昨日まではそこにあったはずのバラの葉が忽然となくなっていることはありませんか?
本稿で紹介する害虫は、小さな身体でバラの葉をことごとく食い尽くす大食漢。その身体からは想像もつかない圧倒的な食欲が特徴です。気づくのに遅れて対処が後手にまわれば広範囲の葉が綺麗さっぱりなくなることすらあります。しかもこの害虫は親子二世代にわたってバラに害をなすとんだ曲者でもあります。曲者は発見次第、ご退場いただくことにしましょう。
本稿ではバラの害虫「チュウレンジハバチ」[チュウレンジ類]について、その被害状況、生態、そして駆除方法について紹介しています。
目次
チュウレンジハバチの被害|「幼虫」の場合
被害の見分け方
春から夏[5月~9月ころ]にかけて、その年に展開した若葉が太い葉脈だけを残して消失するという事態があればチュウレンジハバチの食害の可能性を疑いましょう。
すでに無くなってしまった葉ではなく、今現在消え失せつつある「若葉」をよくよく観察すること。そうするとその葉の端側・ふちに沿って小さな虫が蠢いているのに気づくのにそう時間はかからないと思います。
幼虫による食害の特徴|「若い葉」を注視する
まずはこの写真をご覧ください。小さな虫がたくさんいます。目を凝らしてよくご覧になってみてください。
小さな緑色の虫が葉の端に取りついています。上の写真の左下の葉は、いまはまだ食害されていないものの、これから食害されようとしているのがわかります。他の葉から茎をつたってこの葉にやってきた様子が見てとれます。
今度は角度を変えて、葉裏からご覧いただきます。
写真をご覧いただいてわかるように、幼虫はそのどれもが葉の端側・ふちに密集し、端から周囲を食害していくのがわかります。
食害した葉はその痕が残らず、太い葉脈以外は完全に無くなるのがチュウレンジハバチの幼虫による食害の特徴です。
[逆に言えば、葉に痕が残る程度の食害の被害痕であればチュウレンジハバチの幼虫ではないということです。この場合にはヨトウガ類を検討します。]
食害スピードは早く、以下のようになるのもあっという間。
このようにチュウレンジハバチの幼虫を放置すれば大切な若葉を食い荒らします。
植物が生長するために不可欠の葉を大きく失うことになるので見過ごすことはできません。
当初小さかった害虫はあっという間に成長し、葉と比べてこのように大きく成長していきます。
見つけ次第、捕殺することが大切です。
チュウレンジハバチの被害|「成虫」の場合
これまでは幼虫による葉の食害の様子を紹介してきました。
当然のことですが、幼虫は成虫から産まれるものです。羽のあるチュウレンジハバチは空を飛び、外からやってきます。
被害の多くは幼虫によってもたらされる葉の食害にありますが、その被害を少なくするためには、原因となる親を知っておくことが肝要です。と同時に、成虫による固有の被害もあります。
成虫、2つの特徴
チュウレンジハバチの成虫はオレンジ色の身体に黒い羽根をもっているのが1つめの特徴です。体長は大きくないため見逃しがちで注意が必要です。風の影響を受けながらふわりと飛来し、若く柔らかい枝をターゲットに産卵します。
2つめの特徴はとにかく動きが遅いことです。さすがに飛んでいる最中に捕まえるのは大変ですが、枝にとまっている場合などには簡単に捕まえることができます。上記の写真の撮影についても、産卵現場を発見し、それからカメラを構えた上で悠々と捕まえることができるほど。
成虫は「若い枝」にダメージを与える
成虫がもたらす被害がこの大きく縦に裂けた縦筋です。この縦筋は幼虫が卵からかえって外に這い出すことで生じます。このように裂かれた枝では今後の健やかな成長はなかなか望めません。
狙われるのはきまって若い枝[シュート]で、これから立派な花を咲かせていく主枝へと育つ可能性のある有望な枝がターゲットになるので被害は軽微ではありません。
バラのまわりに黒い羽根をもつオレンジ色の身体の小虫を見つけた場合には、極力駆除するようにしましょう。
生態
生態について軽く触れておきます。
これまでチュウレンジハバチと当然のように呼んできましたが、じつはチュウレンジハバチは「チュウレンジ類」の一種類で、これ以外にもきわめてよく似た「アカスジチュウレンジ」など数種類がいます。ただし被害状況についてはどれも同じであるため、本稿では代表としてチュウレンジハバチを扱っています。
成虫は九州以北の日本各地に生息し、バラやノイバラを狙ってきます。
産卵後の幼虫期間は約30日で、春から秋にかけて複数回発生します。
駆除方法
ここからは駆除方法を場合分けをして説明します。まず、幼虫と成虫の駆除方法を大きく分け、それから薬剤を使わない方法(=耕種的)と化学農薬による方法とに分けた合計4項目で紹介します。最後にそれらをまとめた管理人の考えを記載します。
「幼虫」の駆除方法
若葉を食害する幼虫の駆除方法です。
化学農薬を使わない駆除|テデトールなどで倒す
駆除方法の主流がこの「捕殺」です。
方法は2つあり、
- 手袋などをしてプチプチと直接に潰していく。「テデトール(=手で取る)」とも言われる
- 群がっている若葉は、葉柄の元から切り取り、ビニール袋などにつめてかたく口を閉じて一網打尽にする
この2手段です。
このうち②は発生初期のみ有効です。幼虫が周囲に広がってしまっていれば②では手遅れで、広がったあとは①の方法も併せて行わなければなりません。
これだけでは手に負えないほど蔓延してしまっている場合にのみ薬剤駆除になります。
ちなみに、管理人はこのように見つけ次第そのまま素手で潰しています。逡巡することなく即座に。
化学農薬による駆除|薬剤散布
チュウレンジハバチの幼虫に対して化学農薬を用いるのはおススメしていませんがひとまず紹介しておきます。
「殺虫剤」を散布します。
<適用殺虫剤>
- オルトラン液剤 : 粒状の水和剤は×
- キンチョールS : そのまま噴射でき、手軽
- スミチオン乳剤 : 水で1000倍に希釈して噴霧器で撒く
- ベニカX : そのまま噴射でき、手軽
などが代表的なもので、それぞれに使用上のルールが異なります。
このうちスミチオン乳剤の調剤と散布法は [保存版]500mlペットボトルで超簡単にバラの消毒を行う方法 で紹介している方法でそのまま行えます。
もしスミチオンをお持ちでないなら1つお手元にあった方が便利です。
調剤することなく手軽に散布したいならこちらあたりもご検討ください。調剤済みなので購入後すぐにアタックできます。
「成虫」の駆除方法
次に枝にダメージを与える成虫の駆除方法です。
化学農薬を使わない駆除|テデトールあるのみ
これは捕殺あるのみです。動きが遅いので、
- とまっている場合には簡単に手で捕まえられる
- 飛んでいる場合には目の細かい網で捕まえられる
網がないときは、枝にとまるのを待って、そこをすかさず捕まえるのがよいと思います。
成虫を見つけた場合にはとにもかくにも捕まえましょう。
なお、バラの本数が多ければ、あちこち追いかけるのは大変です。この場合には薬剤を使う方がよいかもしれません。
化学農薬による駆除
成虫はいつ飛来してくるかわかりません。さきほど紹介したキンチョールSなどを予めバラの近くに置いておくと対処しやすいと思います。
ただし、成虫に対して逐一化学農薬で対処するのは推奨できる方法ではありません。やはり捕殺が一番です。
駆除方法、管理人の考え
駆除方法について4項目をご覧いただきました。
チュウレンジハバチの対処の仕方は幼虫であれ成虫であれ、基本的には捕殺がよいと思います。
「幼虫を手でプチプチとやるのはちょっと…。」という方もいらっしゃるかと思いますが、そこは化学農薬の散布と比較していただいて、はたしてどちらが本当によいかという視点で各自お考えいただければと思います。
適用薬剤を紹介しましたが、バラに害を及ぼす害虫のなかでもチュウレンジハバチは薬剤に頼らずに対処しやすい部類です。
ここは化学農薬の使用は抑制的に考えるのをおススメします。
補足。名称はどっちが正確なの?「チュウレンジバチ?」それとも「チュウレンジハバチ?」
最後に、一点だけ補足です。
巷では「チュウレンジバチ」と「チュウレンジハバチ」とで名称がブレていたりします。ハチの一種ではありますが「ハバチ科」に属するので「チュウレンジハバチ」が正式です。
なお、さきほど枝に産卵管を刺している写真をご覧いただきましたが、あの針のような産卵管はあくまでも植物に切れ込みを入れるためのものであって、ハバチ科は毒針をもっていません。
毒針がないことが成虫の捕殺を推奨する理由でもあります。
本稿のまとめ
さて、いかがだったでしょうか。
本稿はバラの害虫チュウレンジハバチを紹介してきました。
- 幼虫と成虫とで被害が違う
- 駆除方法は何が良いか
などを扱いました。
チュウレンジハバチの攻撃をバラ自ら防ぐのはもとより不可能ですから私たちの手で害虫をしっかりと退けてあげたいものです。手間暇の数だけバラも立派で綺麗な花を咲かせて応えてくれると信じています。
本稿がより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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バラの管理/Sentence/All photos:花田昇崇