伝承によれば、遠い昔にそれはそれは美しい衣をまとった天女が大空より舞い降りたと伝えられています。京都府北部(丹後)や滋賀県(近江)をはじめとする日本各地に残る羽衣伝説です。美しい羽衣をまとった天女とは、今日では、純白の羽根を羽ばたかせて大空を舞う白鳥が人に見立てられたものと考えられているようです。大いなる空を軽やかに舞う白鳥への憧れや畏敬の念がもたらした伝説といえましょうか。
本稿で紹介する「エレーヌ・ジュグラリス」は、純白の美しい花色が大きく咲き開く雄麗な花姿が大変見事な白バラです。それでいて重くなりすぎず、宙にふわっと浮く軽やかさがあり、これはさながら伝説の羽衣を見ているかのよう。きっとあなたも目を見張ることでしょう。ただし、繊細な羽衣よろしく耐病性には少し難がありそうです。
本稿は、雄麗に空を舞った天女の羽衣を思い起こさせる美しき大輪の白バラ「エレーヌ・ジュグラリス」の栽培実感です。
目次
品種の情報
4基準データ
- 花色 : 全体はホワイト/花芯が薄いピンク
- 芳香 : ★★★★★☆ [強香|ティー]
- 耐病性 : ★☆☆☆☆☆ [うどんこ病・黒星病ともに「かなり弱い」]
- 樹形 : 木立ち性|ハイブリッドティー
※4基準とはバラ入門者の方がはじめてのバラを選ぶうえでの指標となる4つの判断基準です。さまざまにある選択要素のなかから最も重要な4つの基準を紹介しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
⇒ バラ初心者の品種の選び方。あなたに最適なバラを探す4基準
⇒ ハイブリッド・ティーってなに?|新時代を開いた現代バラ誕生の物語
補足基準データ
- 花つき : やや悪い
- 花もち : やや悪い
- 花形 : 半剣弁高芯咲き
- とげ : 大小鋭さのあるとげだが、さほど密集しない。
- 耐寒性/耐暑性 : 冬は普通/夏は苦手。
- 花径 : 10~15cm[大輪系]
- 樹勢 : 普通。ただし主幹は太くなりやすいので剪定の際に少し大変な場合がある。
- 開花サイクル : 四季咲き
- 作出 :
- 原名 :
※「半剣弁高芯咲き」をはじめ、バラの花形にはさまざまなものがあります。
⇒ 花びらと花のかたちで見る「花の表記」の読み歩き
※補足データは4基準に準じる2次的な基準です。4基準ほど育てやすさに直結するものではありませんが個々の花の個性を形づくる情報です。
外観上の特徴
ロサ・オリエンティスのバラ「エレーヌ・ジュグラリス」は四季咲き性の品種で、冬期を除く春~秋に繰り返して何度も開花します。
開花の様子
つぼみが開くと徐々に膨らみやがて大輪となります。開花の様子はこちら。
花色・花びら
花色を年間を通してみた場合には基本的には白一色が多いように思われます。
ただし、春の一番花や、気温や栽培環境によってはご覧の写真のような薄いピンク色が混じります。ほのかなピンクが混じるこの花色が大変美しい。
花びらはきめが細かくシルクさながらの肌触り。
花つき
花つきは平均的なハイブリッド・ティー系の品種と比べてやや少ないと感じます。
花を咲かせる力を蓄えるためにやや時間がかかる品種でしょうか。
花もち
花もちは標準的です。
気温に大きく左右されるものの、目安としては気温20℃前後で3~4日程度ではないかと思います。
切り花にはあまり適しません。
香り
このバラを雄麗たらしめているのは、巨大で麗しい花とともにやはり香りの強さにあると言えそうです。
大変強い香り[強香]で、バラの香りの分類では「ティー」の香りがします。ティーの香りをもつバラの多くは中程度の強さ(中香)のため、ティー系統の強香品種は多くありません。
ティー系の強香はこの品種の大きな特徴の一つです。
葉の様子
マットな質感をもった葉です。
品種の特徴としても、夏場の暑さにとても弱く、高温時には落葉しやすい印象。
育てやすさについての私の実感
強い香りとシルクのような質感を伴う花びらが多層に重なる雄麗なバラですが、病気への抵抗力などで難しい面がある品種と言えるでしょう。
その理由を以下で見ていきましょう。
耐病性
バラはさまざまな病気にかかり、品種を問わず最も頻繁にかかるのが「うどんこ病」と「黒星病」の2つの病気で、これらは「バラの2大病」と呼ばれています。
うどんこ病への耐性
うどんこ病への抵抗力が「かなり弱い」品種です。
[※表記の参考: 最弱 < かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通 ]
早め早めに予防薬剤を散布することが必要です。薬剤の散布を怠ると必ずといって良いほどうどんこ病が生じます。
うどんこ病の症状|風が運ぶ脅威。季節はずれの粉雪がもたらす病害 ではこの病気について解説しています。
黒星病への耐性
黒星病への抵抗力が「かなり弱い」品種です。
[※表記の参考: 最弱 < かなり弱い < 弱い < 普通よりも弱い < 普通 ]
雨露に当たる環境下で育てていれば黒星病の多発は避けられないでしょう。生育期に葉を落としそのまま枯死につながることもあり得ます。
2大病への抵抗力まとめ
このようにエレーヌ・ジュグラリスはうどんこ病と黒星病の抵抗力がともに「かなり弱い」ことから薬剤散布が必須の品種と言えるでしょう。
樹勢
樹勢は「普通」程度。
背があまり高くなりすぎず、そして横へもあまり広がりません。
とげの具合
エレーヌ・ジュグラリスの鋭さのある大小のとげはさほど密集していません。
用心すれば革手袋なく触れることもできます。
栽培のコツ
コツ1:つぼみを落とす。そのまますべてを咲かせない。
エレーヌ・ジュグラリスは株に力を蓄えることで大輪を咲かせる品種です。
元々多くのつぼみをあげてくる品種ではありませんが、そのなかでも更に花数を制限するのが良いでしょう。つぼみをそのままにすべて咲かせるのはこのバラの長所を損ないます。適宜ピンチしてつぼみを落とすようにしましょう。
コツ2:施肥量を少なめにする。
うどん粉病にかかりやすい品種です。一般的な施肥量を与えている場合はうどん粉病の多発を見ます。
施肥量はやや少なめにしておくのが良いでしょう。目安としては平均的な施肥量の3分の2程度にとどめます。
コツ3:夏場の高温期に特に注意。下葉が落葉しやすい。
高温環境に弱く、葉が黄変し落葉しやすい。
真夏には遮光措置をするなどして直射日光を減らす工夫が肝要です。対策しなければ樹勢が衰えます。
コツ4:地植えは避ける。鉢植えで育てる。
すぐ後で説明しますが鉢植えで育てるようにしましょう。
適する栽培方法
結論から言えば、地植えには適しません。鉢植えがおススメです。
地植えの場合には、梅雨時はもちろん気温の寒暖差から生じる雨露であっても葉へのダメージは蓄積されていきます。また、夏場の高温やきつい陽ざしを一日中受ける路地環境が得意ではありません。地植えは不向きな品種です。
鉢植えの場合、この品種は以下の環境を心掛けると良いでしょう。
- 風通しの良い場所
- 軒下などで雨露が当たらない場所
- 夏場には遮光ネットを頭上にはるなどして光量を調整する
結論:育てやすいか?のまとめ
以上見てきたことをまとめると、エレーヌ・ジュグラリスは、
- 病気に弱くて薬剤散布が不可欠[必須]
- おススメは鉢で育てること
- 高温に弱い
などのことからかなり手がかかる品種と言えるでしょう。(中級者~上級者向き)
本稿のまとめ
さて、いかがだったでしょうか。
まるで天女の羽衣のように香り高い大輪系の白バラ「エレーヌ・ジュグラリス」についての栽培実感を紹介しました。栽培のコツや適する栽培方法などを参考にぜひこの美しいバラに触れていただけたら嬉しく思います。
本稿がより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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エレーヌ・ジュグラリスの栽培/Sentence/All photos:花田昇崇