春と秋に多発する「うどんこ病」と夏に猛威を振るう「ハダニ」は、このどちらもが栽培者を悩ませるバラの代表的な病気と害虫です。
うどんこ病とハダニ。この病害虫はあなたの冷蔵庫にある食酢を使って防除することができます。食酢はこれらのバラの病害虫に忌避効果があり、しかも健やかな成長にも資する一石二鳥の優れものです。
本稿は、バラ栽培に役立つ食酢の効能を紹介します。
目次
食酢の効能
どのご家庭にもある家庭用調味料の「食酢」を使った病害虫防除の紹介です。特定防除資材のひとつで、安全・安心でありながら確かな効果が認められています。
食酢の効能は以下の3つです。
- 窒素過剰を抑えて葉の成長を促進する
- うどんこ病の防除効果
- ハダニの防除効果
この3つのうち、窒素過剰は生育障害を引き起こす原因となり、うどんこ病を生じさせる一因となります。またハダニは厄介な害虫です。
まず窒素過剰の問題点から説明していきたいと思います。
窒素過剰ってなに?窒素過剰だと病害虫に弱いバラになる
窒素(チッソ)は、リン酸・カリウムと並んで植物が育つための中心的な役割を果たす3要素のうちのひとつで、植物の生育に最も大きくかかわる養分です。
植物の体内で茎や葉の成長に作用します。
茎や葉は植物体内のタンパク質をもとに作られますが、このタンパク質の材料はアミノ酸という物質です。アミノ酸は窒素と有機酸という物質とが結合することで作られます。
つまり、
窒素+有機酸 ⇒ アミノ酸 ⇒ タンパク質 ⇒ 茎や葉へ
という流れになるわけですね。
ところが、この基礎的な材料である有機酸が不足したり窒素が増えすぎるなどによりバランスが崩れた場合には、結合先をなくした窒素は行き場を失います。これが窒素過剰です。
窒素過剰になると、
- 茎や葉が緩慢に生育する
- アブラムシをはじめとする害虫に弱くなる
などの症状が生じます。
窒素過剰の葉は、目安として色が特に濃くなる(=濃緑色)ので日頃よく観察していると気づくことができます。
この窒素過剰の状態は、つまり、
「窒素過剰によってバラが生育不良に陥る。そのためバラは軟弱に育つ。したがって病害虫に弱いバラに育つ。」
ことを意味します。窒素過剰で良いことはありません。
植物が求めている必要分以上の窒素は有害であり、どこかに消化させる必要があることを知っておいてください。
窒素過剰はなぜなるの?
窒素過剰となっている最も多く見受けられる原因は肥料のあげすぎです。
施肥を行う際に肥料の成分をしっかりと確認することで窒素過剰は防ぐことができます。
食酢の効能その1|有機酸を補うと窒素過剰が解消に向かう
さて、窒素過剰は有機酸と釣り合いが取れておらず、窒素が余っている状態により生じることを述べました。
ですから、この有機酸を補ってあげることが窒素過剰の解消につながります。
食酢の効能はまさしくこの有機酸を増やす効果にあります。食酢を散布することで有機酸が増えると、行き場を失っていた窒素は有機酸と結びつくことができるので余剰だった窒素は次第に薄れ、やがてアミノ酸、タンパク質へと生成されていくことで植物の健全な生長へと収束されます。
食酢の散布により窒素過剰を抑えることでバラは健全に生長していくことができるわけですね。
ここまでの内容をまとめると、
- 窒素過剰の状態=窒素と有機酸が釣り合いが取れていない状態=有機酸が不足
- 食酢を散布する→有機酸が増える
- 増えた有機酸と過剰だった窒素が結びつきアミノ酸に合成される
- アミノ酸が存在することでタンパク質が合成される
- そして葉や茎が作られる ⇒ 健全な生長へ
ということです。
食酢の効能その2|うどんこ病の防除効果
バラ2大病のひとつ「うどんこ病」は厄介な病気ですが、このうどんこ病は発病初期に食酢を散布することで防除することができます。
末期状態では食酢だと手遅れです。日頃からよく観察し、発病初期に見逃さずに散布するよう心掛けることが防除効果を高める上で大切です。
※うどんこ病については うどんこ病の症状|風が運ぶ脅威。季節はずれの粉雪がもたらす病害 で詳しく説明しています。
なお、食酢を使ったバラ栽培で「有機栽培」(有機JAS法)を名乗ることができます。しかし、「無農薬栽培」(農薬取締法)を名乗ることはできません。食図は農薬扱いとなっているのがその理由です。
有機栽培と無農薬栽培とは別概念です。
食酢は安全性の点で問題ないので化学農薬の使用を抑えるためにもうどんこ病の防除の方法として取り入れるのがおススメです。
食酢の効能その3|ハダニの防除効果
雨の当たらない軒下や室内などの乾燥状態下でしばしば発生するのがハダニという害虫です。
ハダニに対しては化学農薬を使うことに慎重であるべきことからなるべく化学農薬に頼らない防除がのぞまれます。
天然由来成分の食酢をハダニ防除のローテーションの一環に組み込むことは有益だと思います。
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どんな食酢を使えばいいの?食酢の種類について
基本的にはどの食酢でもかまいません。
穀物酢や玄米酢などなんでも結構です。とくに細かな種類にこだわる必要はありません。
ただし、合成酢だけは避けましょう。
どうやってまけばいいの?使う道具と食酢散布のコツ
散布のために使う道具は霧吹きや噴霧器です。霧吹きは100円ショップでも販売されています。噴霧器はホームセンターなどで販売されており安い手動式[蓄圧式]のものなら1000円前後で販売されています。
散布倍率に注意!
間違っていけないポイントは、「その1」と「その2・3」とで倍率が違う点です。
ここを間違えないようにしましょう。
有機酸を補い窒素過剰を抑えるための散布濃度とコツ[その1の場合]
水で200倍程度に薄めます。
散布のコツは葉を中心に株全体に散布する。
うどんこ病とハダニ対策のための散布濃度とコツ[その2・3の場合]
水で500倍程度に薄めます。
散布のコツは葉に対して入念に行うことです。葉表も葉裏も。
うどんこ病の菌やハダニは葉裏に潜んでいるからです。ただ、葉表にも散布しておきましょう。
本稿のまとめ
さて、いかがだったでしょうか。
本稿ではスーパーなどで販売されている食酢を使ったうどんこ病とハダニの防除方法や窒素過剰を解消する必要性について説明してきました。
本稿で紹介する食酢はスーパーで簡単に手に入れることができる安全な材料でありながら、これがなかなか目を見張る効果が見込めます。ぜひ普段の病害虫の防除に組み込んでみてください。
本稿が皆様のより良い暮らしに役立てば幸いです。あなたもバラと暮らす生活をはじめませんか?
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Photo:ローズフェスタスタッフ
バラの管理/Sentence:花田昇崇